俺たちフィギュアスケーター




2009年10月5日 更新



あらすじ

マッチョで派手な演出を売りにしているフィギュアスケーターのマイケルズ(ウィル・フェレル)と、
繊細(せんさい)なナルシストのマッケルロイ(ジョン・へダー)は世界選手権で同点1位となり、
表彰台で大乱闘を繰り広げてしまう。2人は男子シングル部門から永久追放の裁を受けるが、
男子ペア部門での復活に望みをかけペアを組みスケートリンクに上がることに……。

制作国 :アメリカ
日本公開日 :2007年12月22日
上映時間 :93分
配給 :ギャガ・コミニケーションズ
監督 :ウィル・スペック ジョシュ・ゴードン
脚本 :ジェフ・コックス クレイグコックス ジョン・オルトシュラー デイヴ・クリンスキー


出演者

ウィル・フェレル ジョンヘダー






 「ホットファズ〜俺たちスーパーポリスメン〜」との併映で、「おバカ映画特集」として上映されたが、「ホットファズ」に比べたらストーリーの
体裁を守っているというか、ドラマ性は持たせようとしている。
一応、ストーリーでも見せられる形を選択したスポーツコメディだ。
スポーツ物のコメディ映画はちょっとしたワンジャンルになっていて、「メジャーリーグ」や「ドッヂボール」、「少林サッカー」なんてものまである。
スポーツ物というのは登場人物たちの苦悩や血のにじむ練習を一時間以上に渡って観ているので、ラストの試合では勝とうが負けようが自然と目頭が熱くなる作りになっている。
おれは涙腺が緩いほうではないのだが、氷の上を滑るボブスレーの黒人初のチームの実話を描いたコメディ映画「クール・ランニング」はいつ観ても
必ず泣かされてしまう。さて、このアイスリンクを舞台にしたスケート映画はいかに?

フィギュアスケートの世界で常に頂点を争ってきた美男子のジミーと荒くれパフォーマンスのチャズ。
犬猿の仲である二人は同率一位になった世界大会の表彰式で大喧嘩をしてしまい、スケート協会は二人をフィギュアスケート界から永久追放する。
三年後、公式の大会に出られなくなったジミーは、シングルの大会には出られないが、ペアの大会には出場できるというルールブックの抜け道を知り、
かつてのライバル、チャズとペアを組んで史上初の男子ペアで世界大会優勝を狙うのだが・・・
チャズを演じるのはアメリカおバカコメディの雄、ウィル・フェレル。美男子ジミーはおれの大好きな超低予算コメディ「バス男」の主演を努めたジョン・へダー。
このキャストでゴーサインを出せるプロデューサーは懐が広いな。これじゃ女性客は飛びつかんやろ、と思って観てたらなるほど、
この映画は『男子ペア』であることが最大のキモで、そこをフルに生かして笑いを取ろうと思ったら確かにこの二人以外考えられない。
極端なほどキャラ立ちした二人が、ピタッとはりつく競技用ウェアを着て並んでいるだけで笑いがこみ上げてくるのはちょっと卑怯なくらいだ。
 ただ、彼らが強烈な割には挟まれる小ネタがどうも地味でもったいない。ああいうグダグダ感は「バス男」のような小品だからこそ最大に力を発揮できるのであって、こういう金をかけた映画は分かりやすくてもいいから、次から次へ笑いが盛り上がっていく感じを観たい。
(特にエンドロールのマニアックすぎる映像は誰が笑うのか。おれは面白かったけど)。
ブラシやカキ氷のネタも「ホットファズ」のように伏線として上手に活用していたら悪くないのだが、単発で見せるほどのこともなく、
時々はクスリとくるがどうもしょっぱい。
あの北朝鮮ネタくらいインパクトがあるのが続くと爆笑の嵐だったかもしれない(おかげで地上波では間違いなく放送されないだろうが)。
相対するキャラの二人というのはコメディの常套手段だ。カラーの違う二人の衝突だけでも笑えるシチュエーションが無限に考えられる。
しかし、彼らはどこかで必ず理解しあう場面に到達する。たいていはコメディを長引かせるためにそれをオーラス間近にもってくるのだが、
「俺フィギュ」は物語半ば過ぎで二人を和解させ、後半は彼らのライバルになる美人兄妹ペアの妨害をどう潜り抜け、試合に間に合わせるかというので笑いを取ろうとした。
挑戦的だが、おれは失敗だったと思う。これだけキャラの強い二人があっさり仲良くなるのもおかしいし、二人の絡みのほうが後半のアクション的な笑いよりも面白くなったのではないか。
もしかしたら既存のプロットに対抗したのかもしれないが、いまだに過去のシナリオフォーマットが映画界で使われ続けるにはそれだけの理由がある。
先人達の残した遺産には相当頭を捻らなければ太刀打ちは出来ない。悔しいが、映画はもう完成された芸術だ、という言葉を飲まなければいけない場合もあるだろう。
そういう冒険もしていながら、「俺フィギュ」はコメディの基準ラインをちゃんと超えた作品になっている。
ぶり返すようだが、やっぱり主演のあの二人。彼らを見つけただけでワンランク上の映画になったといえる。
映画の巧いところをもうひとつ。実は「俺フィギュ」は前半と後半で全くカラーが異なる。
前半で地に足のついたストーリーを見せておいて、後半からはもうむっちゃくちゃの(褒め言葉である)おバカ映画に昇華させているのだが、その移行が絶妙すぎる。
観客の信頼をギリギリ裏切らないようにストーリーを進めながら、徐々にとギャグを破天荒にしていき、気付いたときには登場人物がどんなありえない行動をしても違和感を感じなくなってしまう。
これはある意味洗脳に近い。しかし、その綱渡りが紙一重で一歩間違えば客が「は?」ってなるところをうまくかわしている。
無茶苦茶な映画に見えて、結構細心の出来なのだ。















2009年1月11日 早稲田松竹にて鑑賞鑑賞


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