アレクサンダー大王




2009年10月19日更新



あらすじ

19世紀が終わり、20世紀の新たな夜明けを迎えたその日、アレクサンダー大王と名乗る強盗団の首領が仲間と共に脱獄し、英国人を人質にとって、国に恩赦による釈放を要求する。
故郷に帰ると、以前いた村とは様変わりしていて、完全な共産主義に目覚めていた。
アレクサンダー大王は埒の明かない交渉と、村への不信感を募らせてゆく・・・


制作国 :ギリシャ・イタリア・西ドイツ
制作年 :1980年
上映時間 :208分
監督 :テオ・アンゲロプロス
脚本 :テオ・アンゲロプロス ペトロス・マルカリス


出演者

オメロ・アントヌッティ エヴァ・コタマニドゥ グリゴリス・エバンゲラトス







 今日は鑑賞前に少し寝ておいた。
この「アレクサンダー大王」は前回同じ映画館で鑑賞した「霧の中の風景」のテオ・アンゲロプロス監督作品であり、上映時間が、な、なんと204分!3時間半もの間、映画館に縛り付けられるのだ。
これは「エレニの旅」や「旅芸人の記録」に匹敵する長尺である。
疲れているときに観るのは危険であると判断した次第だ。
前回「霧の中の風景」のときに書こうと思って忘れていたのだが、アンゲルプロス映画の日本語訳は池澤夏樹という人が担当している。
ギリシャに滞在していた作家で、小説やエッセイを多数書いている。
実はこの池澤夏樹がおれのアンゲロプロスへの入り口だった。
学生時代に講師が推す本の一覧リストがあって、その中に池澤さんの書いた「シネ・シティー鳥瞰図」という映画についての考察本が載っていた。
おれは買ってすぐにその本の虜になった。
本当に何回読み返したか分からないくらいその本が大好きで、持ってる映画に関する本の中ではダントツで面白い。
この本の話もまたどこかで書きたいが、今は置いておく。
その本の中に「旅芸人の記録ノート」という文章がある。
これは池澤さんがギリシャに滞在していたときに映画館で観た「旅芸人の記録」から始まり、映画の中身を丁寧かつ真摯な文章で語っていくものだ。
その文章が実に豊満なイメージを持っていて、18歳のおれは酔っ払った。
あの本がなければ、「エレニ」でダウンしていたおれがもう一度アンゲロプロス作品を観ることはなかったかもしれない。

 今回、おれはあらすじさえ知らぬまま映画館の門を叩いた。
これはちょっとした悲劇だった。話がまるで見えてこないのだ。
アレキサンダー大王はもちろん知っていたので、てっきり紀元前の史劇だと思いこんでいた。
冒頭のカメラに向かってのモノローグが終わって、聞こえてきたのは「20世紀万歳!」という貴族たちの声。
えっ、紀元前の話じゃないの?場所は変わって牢獄。
兜をかぶった男が脱獄し、貴族を誘拐する。聞こえてきたのは「世がアレクサンダー大王じゃ」。
これはもしかしてコッポラの「ドンファン」のようにキチガイの男が「私は現代によみがえった○○である!」というのと同じなのか、あるいはSF映画よろしく本当にアレクサンダー大王が現代によみがえった映画なのか。
結局主人公のことが見えてくるのは始まってから二時間を越えた辺り。
こういう設定は早めに分かってないとストーリーを追うのが本当にしんどいから困る。
さらにいつものアンゲロ節冴え渡る天下の超絶長回しのオンパレード。ストーリーがよく分からないものをこの長回しで見せられるとちょっとした拷問だ。
ビデオでは絶対に最後まで観れないと言い切れる。
ギリシャの人はこういう緩慢なカメラに慣れているのかと思いきや、向こうには寝れないという子供に「アンゲロプロスの映画を観なさい」という言い回しがあるくらいで、疲れているときに観るものではないというのは世界共通らしい。
タルコフスキーや溝口の長回しは観ていて心地いいが、アンゲロプロスのそれは時間を超越するという確固たる計画の下で計られているので隙がなく、故に疲労する。
ヒッチコックファンのおれからすれば、やはり映画の究極の魅力はモンタージュであって、カットバックで見せてこそ感動する。

 アンゲロプロスを好きになれないのは、おれの映画感覚がまだ熟成しておらず、彼の作品を何度でも観たいという人からすればまだまだ幼稚なのだろう。
それは否定しないし、逆にこれから映画を観る感覚を鍛えていつか心から楽しめる日がくるのを楽しみにとっておこうと思う。
それでも曇天の撮影は精神を揺るがせる何かを確かに感じるし、脱獄のときの白い馬が木立の中に佇んでいる場面は
神話をそのまま映像化したような画にため息が出る。
向こう10年は絶対に記憶に残っているであろうカットがいくつもあって、
今回はそういう味わい方を自然としていた。
おれが映像感覚を高めればもっと点数の上がる映画で、変な話、これからの“おれ次第”な映画だ。














2009年1月16日 東京芸術センターにて鑑賞


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