GOTH リストカット事件






2010年6月7日 更新



あらすじ

森野が拾ってきたのは、連続殺人鬼の日記だった。
学校の図書館で僕らは、次の土曜日の午後、まだ発見されていない被害者の死体を見物に行くことを決めた…。
触れれば切れるようなセンシティヴ・ミステリー。







著者 :乙一
出版社 :角川書店
発行日 :2002年7月

















■ ハイジン

 それでは、はじめていきます。今回は久々の活字になります。
乙一の「GOTH リストカット事件」いわゆるライトノベルになるわけなんですけど、個人的には乙一はある時期に色々と買い漁っていた時期があって、一通りには読んでいるんですけど。
この乙一という作家はライトノベルを元に活動していて、まあ、文章もスッキリしていて読みやすくて、そんなに奇抜な表現があるとか、特別上手いとかいうわけではないんですけど、一言で言えば2割9分のアベレージを常に出し続ける作家だと思うわけなんですね。
 邦画でも乙一原作の映画というものが幾つも公開されていて、「ZOO」を始めに「暗い所で待ち合わせ」「死に底ないの青」「君にしか聞こえない」 「KIDS」それに「GOTH」と。
雨後の竹の子のようにどんどん公開されていってて、俺も今上げた映画の原作は読んでいたわけなんですけど、映画に関してノータッチで観てないんでわからないんですけど、原作に関しては正直、2割9分なわけなんですね。
誰が読んでもある一定の評価を与えるような。そうゆう作品ばっかりなんですけど。
 ただ、この「GOTH」に関して言えば、非常に特異な作品で、そうゆう意味で乙一を語る上で最も重要な作品になってると思うんですよ。「本格ミステリ大賞」受賞をしたという肩書きも含めて。
この「GOTH」の持つ特異性、これは乙一という作家を限定した話ではなくって、漫画、アニメ、全てを含めた上での「GOTH」が醸し出す特異性、今回はそれについて語っていきたいなと、そうゆう風に思っています。






■ 電脳BOY

 俺は話の類としては好きなんですよ。狂気殺人とか。犯罪系とか好きなんで。単純に、あらすじだけで買おうと思ったんで。
で、買って実際に読んで見ると、すごい話も読みやすいし、全然、詰まる事無く一日くらいで読めたんで、俺は非常に楽しめましたね。
そんなにグロくはないんですよね。サラサラ読めて、やってる事は気持ち悪いんだろうけど、全然、暗い所を出さずにサラッと描いてる所が印象的でしたね。
 ただ、次回作を読もうという気にはならなかったんですよ、乙一という作家の他の作品を。
「ZOO」は読んでみたいって気はあるんだけど、他の作品では気になるモノは無いな、っていうか。






■ ニクロ

「ZOO」は面白いですよ。






■ 電脳BOY

面白いですか?






■ ニクロ

 俺は、「ZOO」と「GOTH」しか読んだ事ないんですけど、両方短編というか、ショートショートを伸ばしたようなモノなんで、それだけしか読んだ事無いんで、言い切るのはアレなんですけど、短編作家というか、よくあるミステリー作家というのは一つの長い小説を書こうと思うと、まあ、知識をどうしても掘り下げるじゃないですか、事件が深まっていく毎に。
色んな所で事件があったとなると、長いモノを書く時に予備知識の要らない所で文章を書いていると、読むほうも軽すぎてイライラすると思うんですよ。
やっぱり、この人の文章の描き方は短いモノ向けというか、サクッと、ホントにライトノベルじゃないけど。サクッと読めるという。
 さっき、ハイジンは文章は特別上手いわけじゃないと言ってたんですけど、俺はすごく上手いと思うんですよ。
俺は、ショートショートを結構読んで来てるんですよ。
たぶん、ショートショートというジャンルが一番読んで来てると思うんですね。
もう、子供の頃から星新一であったり、筒井康隆であったり、あの辺ももちろん読んでて、あと素人が投稿する「ショートショートの広場」とかも読んでて、すごいねショートショートにはうるさいんですよ。
 やっぱりね、ショートショートってのはね、書けるんですよ素人でも。書けるんですけどね、書いた所で面白いモノっていうのはやっぱり、余計なモノを書かないっていう事なんですね。面白い文章を書くっていうのは。
乙一というのは、やっぱりそれが上手いなと思って。この人の文章無駄がないんですよ。余計な言葉がないというか。
この人がウケるっていうのは、ミステリーを書きながら、例えば警察の〜課の何々が指紋を見たらどうのこうのとか、そうゆう事を掘り下げていちいちネタにしていかずに、スーッとストーリーだけで追っていく所がこの人の面白い所だと思うんですよ。
 やっぱり、世間に受けてるっていうのも、そうゆうタイプのミステリーの描き方が今まで無かったからだと思うんですね。
いわゆる、純粋に予備知識が要らないというか、トリビア的な「あー、今警察ってそうゆう風に動くんだ」的な、やっぱりミステリー作家が描くとそうゆう事になっちゃうんですけど、乙一は絶対にそうゆう所を押さえずに、淡々と主観で持って描くので。一番読みやすいんですね、その描き方が。
 だから、正直、物凄い濃いいモノを読んだって感じではないんですけど。
この軽さってのがウケた理由なんだろうな、とは思いますね。






■ ハイジン

まあ、ショートショートとして読むっていうのは間違っていないというか、ホントにパターンじゃないですか。






■ ニクロ

 ショートショートにはショートショートの描き方があるというか、短編小説には短編小説の描き方があって。
この人は、短編小説の描きながら、ショートショートの上手い描き方をしてるんですね。
だから、俺はすごいなと思った。






■ ハイジン

 だから、一個オチをちゃんと用意していて、そこに持って行くというような、どんでん返しではないんだけど、そうゆう描き方をしてるから、そうゆう意味ではショートショートに近いモノはあるんですね。






■ ニクロ

 この人は、自分で用意した箱は絶対に最後まで見せますからね。
変な余韻を残して、これは一体どうゆう事だったんだ? というような、そうゆう余韻では収めないですよね。
完全に自分が考えたアイデアというのも全部出し切って、出し切った上で箱を閉じて終わるっていう、このやり方で描いている。






■ 電脳BOY

ミステリーというと、ちょっと違うかなとも。






■ ニクロ

まあ、謎解きではないですよね。






■ 電脳BOY

 淡々と読めちゃって、何だろう、と思う事も無くスラーッと読めてしまうというか。
でも、「本格ミステリ大賞」を取ったわけですよね。






■ ハイジン

 だから、「本格ミステリ大賞」というのも、本来ならばミステリとして出されている本が対象になるのだけれども、まあ、広義の意味でのミステリという事なんだろうけど、この本の文庫のあとがきで書いていたんですけど、ミステリとして描いたわけではなく、主人公たちが妖怪と戦っているような、1話完結のファンタジー的な要素が強かったと言ってるんで。
本来の意味でのミステリーとは違う所にあったりするんですね。
 特に登場人物の造形もマンガですからね。あの、ヒロインの女の子の、色白で、黒髪で、目の下にホクロがあって、喋り方もあんな感じで、冷たい雰囲気を持ってるけどすごい可愛いみたいな。






■ 電脳BOY

ホントにテンプレートみたいな(笑)。






■ ハイジン

アニメのテンプレじゃねーかっていう(笑)。






■ 電脳BOY

主人公の無意識に他の人に笑顔で対応するとか、そうゆう特殊能力的なね。






■ ハイジン

それはほとんどライトノベル的な要素なんですよね。









ゴスの持つ体温









■ ハイジン

 この作品が持つ猟奇的な事件を扱いつつも、そうゆう所を感じさせずにサラッと読めてしまう所には、それを空気というか、体温というモノを持たないという事が上げられると思うんですね。
読んだ中で一番印象に残ってた会話で、最初の話で夜が手帳を拾う、で、手帳の中には次に殺される女の子の名前が書いてあるという中で、「この手帳を僕たちが警察に届けなかったら、次の犠牲者が出ちゃうんだろうね」みたいな事を主人が言ったら、夜は「本当にいたたまれるわ」とソバを啜りながら表情を変えずに言う、っていうシーンがあって。
あそこのシーンこそがこの作品を象徴していると思うんですね。
一切の人間同士の心の通いというものを描かず、人間同士の温度を取らずに、マンガ的なドライな世界をそのまま出す。
 だから、典型的なライトノベル的な作品になっているんだけど、だけど、扱っている題材が題材になっているだけに広義のミステリーになっちゃうという。
そこがこの作品の一番の肝になっていると思うんですね。






■ ニクロ

ちゃんと伏線はあるんですよね、一応。小さい事では。






■ 電脳BOY

 伏線というか、解り易いですよね。解りやすく暗示しているような。
手を切る話でも、「森野白い手」というキーワードが何回も出て来て、白い手が関わって来るんやろうなって、本当に解りやすく出てくるんで。
優しいっちゃ、優しいなと。






■ ハイジン

 対象年齢は小学生くらいまで幅ありそうですからね。
でも、描かれている事はすごく残酷な事じゃないですか。






■ 電脳BOY

実際にやっている事はね。






■ ニクロ

 だから、この作品が面白いのは、いわゆる主人公サイド、犯人サイドには感情が無いんだけど、被害者には体温があるという。手首を取られる側とか。
かと言って、読んでいて痛々しく思うって事もないんだけど、なんていうか、気持ち悪いんですよね。ゾーッとするというか。
 例えば、乳児の手を切ってその瞬間に乳児が泣き出したって描写は、その次には違う主観で描かれていて違う話になっているんやけど、あそこだけポッと出されると、ちょっと気持ち悪いんですよね。
 だから、ミステリーとか恐怖小説とか、っていうのとは違った描かれ方をしていて。
確かにそうゆう意味では、妖怪との戦いっていうのは、冷血動物じゃないけれども、感情を持たない主人公と感情を持たない犯人というか、敵がいて、その間に生きている人たちが居る、という構成ですよね。
でも、丁度いい所なんですよね。
体温を感じさせ過ぎちゃうと、今度は読んでる方がイヤになって来るんですよね。
主人公に対しても、犯人に対しても。ちょうどいい距離感というか。
残酷な事を描いているんだけど、それに対してあまりにもイメージを明確にしすぎないという所で筆を止めてるっていう所が、この人は上手いんだなと思うんですけどね。






■ ハイジン

 まあ、単純な人間の好奇心の部分を摘出した作品、というのが一番解り易い作品のテーマだと思うんですけどね。
例えば、猟奇的な殺人がテレビなり、ネットなりで報道されているわけじゃないですか。
古い話しなんですけど、例えば「監禁王子」だとか、そうゆう名前を付けて。
一家バラバラ殺人だとか、そうゆうモノってそこには被害者が居て、加害者も存在していて、ってゆう。
 でも、その報道されている事件を観ている自分は、事件とは全く関与しない場所に居て、そこにあるのは猟奇殺人に対する興味だけで、その興味という浮き上がっている部分だけを切り取ったのが、この作品に流れている本質なわけなんですね。
だから、この作品からは人の体温というモノを感ずる事がないんですね。






■ ニクロ

与えてないですからね、そこは。作者が。






■ ハイジン

 極論を言えば、ゲーム・アニメ世代の寵児的なトコだと思うんですけどね。乙一という人は。
戦争を生で体験しているような人なら、到底達する事の出来ない想像力だと思うんですよ。
ゲームだとか、そうゆう環境を幼少期の頃からゼロ距離で接して来た人だから、この辺の温度を描く事が出来ると思うんですよ。
 以前に乙一がブログをやっていて、それが本になってるんですけど、その中に実際に起きた猟奇的な殺人事件の犯人の部屋から「GOTH」が見つかったと報道されて、それに対して「GOTH」がその犯人にどれだけの影響を与えたのか、と自問自答してる記事があるんですね。
その部分だけは読んでいて、乙一の葛藤というモノが見れたりしたんですけどね。






■ ニクロ

どうゆう内容なんですか?






■ ハイジン

 単純に、「どれだけ影響を与えたのだろうか?」とか、そうゆう事を自問自答しているだけなんですよ。
こうゆう報道があったけれど、「GOTH」は犯人の動機にどれだけ影響を与えたのだろうか、と。
そうゆう事を自分自身に問いただしているだけなんで、何も答えは出ていないんですけど、ただ、そうゆう事を書いてる日があったのは、すごく興味深くって。
乙一自身も考えられなかった範囲だったのかなと。
実際に世の中に影響を与えるという事は思えないんですよ乙一にとってはゲームですから。









トリック









■ ニクロ

 主観で描かれていながら、主人公の本当の心まではわからないというのは、読んでいて面白かったですね。
いわゆる二重構造じゃないですか。最後にオチとかで主人公の「僕」の考えてる事が明かされて、おっ、となったりするんですけど、だいたい主観で動いてる話っていうのは、主人公は間違いなく正直者であるって前提なんですね、小説では。
ミステリーの一人称っていうのは、主人公がどんどん謎を解いていく、っていう、シュミレーションみたいな、謎が解けていって知識が増えていってっていうのを、読み手が共有しながら増やしていって、最後に物語が解決して、で、そうゆう事だったのか、っていう。
作品の中の主人公の理解と共に読んでる方が答えを得るっていうのが、セオリーじゃないですか。ミステリーだとか、主観ものでは。
でも、「GOTH」に関しては主観で描かれているんだけど、主人公にも(読者に)隠している事がある、という風に進んでいくじゃないですか。
で、最後に実はこうゆう事だったんだけどね、という事を軽く書き流す。
こうゆうのもミステリーとして、たぶん、そうはない描かれ方だと思うんですね。俺自身読んだ事が無かったんで。
そうゆう所も、ミステリー大賞に選ばれた事の一因なんじゃないですか。
 だから、主人公が見えないっていうのが面白いんですよね。主観で描かれている主人公が。
主観で描かれている以上は、正直である事は前提ですからね。主人公が驚いたら、本当にコイツビビってるんだ、っていう。
まさか、驚いてる事を隠しているという風に、主人公目線で書く事はないだろうという、そうゆう信用の元に成り立ってる関係なんで。
そこはちゃんと守りながら、でも最後に明かすっていう。そうゆう上手さってのはやっぱりあるんで。






■ ハイジン

その信用を逆手にとって、的な事はやってるからね。






■ 電脳BOY

結構、そうゆうトリックは多いからね。






■ ハイジン

そのトリックが全てだったりするからね(笑)。他の作品でも使ってたりするし。






■ ニクロ

 でも、そうゆうトリックを使う人は三人称だったり、人を名前付けで呼んだり。
読んでる人が純粋な傍観者なんですけど。






■ 電脳BOY

 それだったら、一番興味深いのは「犬」じゃないですか?
無理があるっちゃ無理があるけど、実験的というか。






■ ハイジン

タイトルが「犬」ですからね(笑)。






■ 電脳BOY

アレは完全にハマったというか。ダマされたというか。






■ ニクロ

でも、人に勧める時に、「絶対にこの作品騙されるよ」っていう言い方ではないですよね(笑)。






■ 電脳BOY

そうゆう事ではないんだけど(笑)。






■ ハイジン

読んだ後に、なるほどな、っていう(笑)。






■ ニクロ

 そうゆう事です(笑)。作者も意図的にそうゆう狙いで描いてはいないからね。
「どうだ、ビックリしたか!」みたいな事ではね。






■ ハイジン

ホントに、納得するっていう。






■ 電脳BOY

 二回目通用しないですからね。逆に粗が見えてくるというか、二回目だと。矛盾点というか。
こんな事思わんだやろう、とか。そこは、ゲーム的なキャラで成り立ってるというか。






■ ハイジン

「ZOO」でも、そこが大事というか、「セブンルーム」っていうのがあるんですけど、それが一番面白いんですけど、それもゲーム的な感じで。






■ ニクロ

俺は「セブンルーム」が唯一、頂けなかった。






■ ハイジン

 俺はね、アレはほとんど貶しようがない、というか。完璧なんですよ。帯の通り「なんなんだ、これは?!」という。
俺の中での乙一は「GOTH」と「セブンルーム」が大きいというか、この二点で乙一の説明がつくんですよ。









ゴスの持つ軽さ









■ ニクロ

言い方は悪いんですけど、バカでも読めるっていう所はあるんですよね。






■ 電脳BOY

ホントに悪い言い方ですね(笑)。






■ ニクロ

 一番ウケた要因ってそこじゃないかと思うんですよ、乙一が。
結局、今は小説って読まないじゃないですか。
活字離れとか言われてるけど。でも、乙一のは読めると思うんですよね。
それって、この人が徹底して予備知識を必要としないモノを書き続けてるからで、舞台が学校であるモノも多いと思うし。
いかにもフィクションで、さっきも話した二次元的な、ゲーム的な話しになると思うんだけど。






■ 電脳BOY

キャラクターからして既にね。






■ ニクロ

 だからね、これはウケるしかないんですよ(笑)。変な話。
ただ、これを自分のベスト1だ、っていう人も居ないと思うんですよ。
ホントにベスト1だ、って思ってる人は居るかもしれないですけど、ただ、そうゆう人も言わないと思うんですね。乙一がベスト1だとは。
まあ、すごい沢山の本を読んできたらの話しなんですけど。一言で言うと言い辛いんですよ。






■ ハイジン

でも、俺は「GOTH」に関してはね、特に。






■ ニクロ

ミステリーの中ではベスト1っていう人は結構居るかもしれないですけど。






■ ハイジン

いや、二次元的な誰にでもウケる乙一的な中でも、「GOTH」に関しては特別優れてると思うんですけどね。






■ ニクロ

 確かにね、やっぱりバカに出来ないって所は確かにあるんですよ。
ハッキリ言ってこれね、ウチの親が読んだんですね。
もう40超えてるんですけど、面白いって言ってました(笑)。
とりあえず、パッと読んだらしいんですよ。俺が、たまたま机の上に置いてて。読んで見たらサクサク読めて面白い。
やっぱり、そうゆう軽さってのは、作家が嫌う軽さじゃないですか、もしかしたら。こうゆうモノってのは。
そうゆうモノを平然と書けるっていうのはあると思うんですよ。






■ 電脳BOY

でも、意識してやってるんでしょうね。肉を削ぎ落とすという。






■ ハイジン

 削ぎ落としの作業は、かなり丁寧で計算されてやられているから、だから、突飛おしのない話になる事無く、ドロドロした話になる事無く、丁度いいバランスになるのではないかと。
以前にテレビの報道で、猟奇的な殺人事件の被害者の親が会見をしていたわけなんですよ。拉致された姉妹を殺された親が。
その親が会見場で、犯人が死刑にならなかったら、その時は私が犯人を殺しに行きます、それが無理だったら裁判所の前で自決します、みたいな事を言うわけなんですよ。本気の顔で、泣きながら。
その辺のドロドロとした感情が、「GOTH」の被害者側にはあるわけなんですよ、本当は。被害者の親には。
でも、その辺の事を、いかにドライに描くか、そこでのバランスを、温度の調節が奇跡的にこの小説は上手くいってるんですよ。






■ ニクロ

アレですよね、それはさっき言った体温の問題ですよね。






■ ハイジン

体温調節が、乙一は自然と上手く出来るんですよ。






■ ニクロ

 リストカットで言ったら、最初の赤ちゃんの手を切る、っていうのも、ふっくらとした手の、っていう、あのふっくらとした手の気持ち良さそうな感じというのは、誰しもが解るというか、共感出来るというか、だからその共感性はまるで無いものではないわけなんですよ。
もちろん、殺したくはないけど、そうゆうモノを所有したいとか、そうゆう気持ちはあると思うんですよ。
そこでやっぱり、切っちゃう人と、切らない人の境目ってのを、あまりにもかけ離れ過ぎてるように描かないっていう所が、その辺が単なる妖怪小説にならない所だと思うんですけどね。






■ 電脳BOY

 個人的には、殺人者の感情をもっと読みたい、ってのはあるんですけどね。
何で、こうゆう人物になったのか。そこは結構、興味本位というか。
猟奇殺人者がどうゆう風に人格を形成されていったのかとか、知りたい所なんですけどね。






■ ハイジン

乙一は設定ありきですからね。






■ 電脳BOY

本当にね、こうだからこうみたいな。






■ ハイジン

最初から、スイッチを入れた瞬間に勇者は勇者であるみたいな。






■ 電脳BOY

設定は曲げられないというか。






■ ハイジン

勇者になる過程とかではなく、勇者なんだと。






■ ニクロ

 だから、何で手を切る犯人がやってる相手に捕まらないんだ、っていう事も、被害者が生きてるのに有り得ないだろう、っていう事も全部抜きなんですね。






■ ハイジン

ラスボスはラスボスなんですよ(笑)。






■ 電脳BOY

あれですよね、善悪ではなくって、警察に突き出すとかではなく、そこは気持ちいいですよね。






■ ハイジン

好奇心だけで動いてますからね。正義感とかではなくて。









100%の小説









■ 電脳BOY

こうゆう作家もいいんじゃないですかね。活字離れか知らないけど。ウケるだろうというか。






■ ニクロ

ウケるだろう、っていう言い方をするのは、これを否定する事で生きてるって事なんですけどね。






■ 電脳BOY

でも、ココから入り口が広がったら、という意味ではすごい、いい作家ではないかと。






■ ハイジン

 まあ、元々ライトノベルが小説とは違う、マンガやアニメに近い種類であるというのは、前提としてあるじゃないですか。
ただ、「GOTH」に関してはラノベとしての属性を持ちつつ、小説に現実的な描写を増やすとかではなく、純粋なラノベの想像力で肉薄したっていう意味では、賞賛に値する作品だとは思うんですね。






■ ニクロ

 俺は、ライトノベルというモノの定義が、解っていながらあんまり自分では言いたくないっていう所はあるんやけど、とりあえず、この作品は老若男女読める作品ですよね。
それで、読めていながら、いわゆる初心者向けとも言い切れない、他とは一つ頭抜けた面白さがある作品だとは思いますね。
 でも、いわゆる宗教的な勢いにはならなそうな作品なんですね。例えば村上春樹とか、ちょっと違う流行り方をしたじゃないですか、他の作家とは。
受け入れられた層は広いのに、なんというか、固定客は居るんだけど、固定客が「俺がコレの固定客だ」と言い切らない所がこの人の持つ特性であって、弱点ではないかと。






■ ハイジン

軽さってのが、いい意味にも、悪い意味にも取れると。






■ ニクロ

そうゆう事です。だから、老若男女ってのは、ホントにそうゆう事なんですよ。






■ ハイジン

 まあ、乙一が生きている間には、その常識が覆されないだろうな、ってのは解りますね。
要するに村上春樹がある意味で、幅広い年齢層に効く大きな看板になってるじゃないですか。
とりあえず、村上春樹出しておけば、的な。ただ、乙一ではそれほどの効力がない、という意味では。






■ ニクロ

まあ、権力にはならない、という所ではあるんですね。






■ 電脳BOY

面白いけど、っていう。






■ ニクロ

 要は深読みをする事もないですからね。ある意味では、余韻を残さないってのは、すごい事なんですけどね。
余韻を残すってのは、一つの書き方であって、余韻を残す事によって、いつまでもその小説が語り継がれる所があるんだけど、乙一の場合は、100%で受け取って、もうカスも残れないですからね。






■ 電脳BOY

読み終わった後、気持ちいいですからね。






■ ニクロ

 だから、そうゆう事なんですよね、この人の受けいれられ方っていうのは。
響いていかないけど、読んでる間はどんな小説よりも酔っ払えるという。
そうゆう受けいれられ方なんですね。






■ ハイジン

 たしかに、そうゆう余韻が残らないってのあって。歴代の名作ってのは、ある程度の余韻は残しに来るんで。
そうゆう所で、解釈なりの議論が起こって。






■ ニクロ

それで、古びないという所はあるんですね。






■ ハイジン

 その専門書もあるわけじゃないですか。研究本とか。結局、そうゆう所までは派生しない、そこで完結しているって所が、乙一の宿命であって、でも、そこが一番の良さであるとも考えられるわけなんですね。
それでは、今日はこれくらいで。



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