シネマ歌舞伎 連獅子
2009年12月21日 更新
あらすじ
親獅子が子獅子を千尋の谷に突き落とし、駆け上がって来た子獅子だけを育てる。
クライマックスの白の毛の親獅子、赤い毛の子獅子による、息の合った豪快、かつ、華麗な毛振りは必見。
制作国: 日本
公開日: 2008年12月
上映時間: 57分
配給: 松竹
監督: 山田洋二
作: 岡鬼太郎
改訂・演出: 榎本滋民
出演者
中村勘三郎 中村 勘太郎 中村 七之助 片岡 亀蔵 坂東 彌十郎
前作と打って変わってこちらはこれぞ歌舞伎という演舞。
狂言師が演奏しながら大筋を語るのだが、現代語とは違うので意味はつかめない。
しかし、説明がなくても演者の動きだけでストーリーは理解できる。
とくに終盤の踊りから長い毛を息をピッタリ合わせて振る様など観ていてため息が出る。
音と動きの一体感に背筋がぞくぞくする。こちらは芸術娯楽といったところ。
最後に前回投じた問題というやつだが、これは正当な「映画」に対する評価になりうるのだろうか?
という疑問だ。舞台的な映画の究極は「天井桟敷の人々」という傑作が存在する。
あれはセットを書き割りにして役者に舞台風の演技をさせるという映画と演劇のぎりぎりのラインを綱渡りしていたが、シネマ歌舞伎はそのラインをあっさりこえて「いえ、これ歌舞伎ですから」(トヨエツ風)とかわしきった感がある。
実際にあった公演を上手く編集してそれが面白かったというのは、映画の評価というより「舞台」に対する評価になってしまう。
今日の評論がほとんど内容に触れてないのはそのためである。
本当に映画ファン泣かせの映画なのだ。
結果から言うと、2000円を取られた意味は最後まで分からなかった。
設備も音響も大きく変わってはいなかったので、本当に歌舞伎を映画館で観ただけという感想。
多分、歌舞伎を舞台で観ようと思ったら諭吉が何人も逃げていくのだから、1000円札二枚くらい安いという考えだと思われる。
実際、観客も満足そうな顔で(作品自体満足のいくものだったが)出て行って誰も損をしたと思ってはいない。
おれも損したとは思わない。だが、あの200円がどこに行くかは行き先不明である。
加えて、このシネマ歌舞伎の大ヒットを受けて次はオペラをスクリーンでやるらしい。
シネマオペラといったところだろうが、いよいよ金儲けの匂いが漂い始めてちょっと考えてしまう。
映画はスクリーンで上映されることを目的に制作されている(当たり前だ)。
舞台の映画化は聞くが、映画の舞台化は聞いたことがない。
今回のシネマ歌舞伎にしろ、巡業公演をカメラで撮影して編集しスクリーンで観ても余りある面白さではあったが、間違いなく舞台よりは劣化しているのだ。
景気も厳しくなる中、財布の紐がキツくなり安物の芸術で済ませようとする人が増えたらそれこそ本末転倒ではないか。
興味を持たせるにはいいと思うが、決してメインになってはいけない媒体なのである。
2009年1月28日 東京劇場にて鑑賞