マン・オン・ザ・ムーン




2010年2月15日 更新



あらすじ

ジム・キャリーが実在のコメディアン、アンディ・カウフマンに扮した人間ドラマ。
35歳で他界した伝説のコメディアンを主人公に、その孤独で不可思議な生涯を綴る。
おかしくも哀しいカウフマンを、等身大に演じたキャリーが秀逸。ミロシュ・フォアマン監督。
売れないコメディアンとしてライブハウスを転々としていたカウフマンに、ある日チャンスが訪れる。
やがて人気者となった彼は、その成功とは裏腹に自虐的になってゆく。

制作国 :アメリカ・イギリス・ドイツ・日本
日本公開日 :2000年6月10日
上映時間 :119分
配給 :東宝東和
監督 :ミロス・フォアマン
脚本 :スコット・アレクサンダー ラリー・カラゼウスキー


出演者

ジム・キャリー  ダニー・デヴィート




 渋谷は都内では最も幅広く映画を上映している街だと思う。その割にニクロのシアターシネマでは愛のむきだしで一度行ったきりだ。
理由としては往復に時間がかかるのと、朝早くからフィルムをかける映画館が少ないからだろう。
やはり渋谷は映画も夜型なのである。でもたまには渋谷でとも思い、夕刊までに間に合う面白そうな映画を探していると、「シネマアンジェリカ」という聞き覚えのない映画館が見つかった。
いかにも地下のガレージ的な場所でアート学生が切符を切ってそうな名前だと思ってたら、行ってみると案の定イメージどおりの小屋。
しかも十分前に着いたのに客はおれ一人。やはり、渋谷民は夜型なのかなあ、などと考えながら、荷物を置いてトイレに行った。
用を足していると隣の事務室から声が聞こえた。

「(客が)ゼロならそのまま休憩行くからー」

 なるほど。観客が一人もいなければ当然フィルムも回らないわけだ。その分、仕事を休めることになる。
参ったなあ。これじゃトイレから出づらいじゃないか。とはいえ早く出ないと本当にフィルムが回らなくなっても困る。
こっちはわざわざ北綾瀬から来てるのだ。期を見計らってドアを開ける。こういうときのおれの運のなさは神がかっていて、やはりばったりスタッフと顔を合わせてしまった。
お互いに苦笑いし、向こうは映写室へ、おれはそそくさと場内へ。ところが戻ってみると観客が二人増えていた。
おれは何だか救われた気がしてホッとした。

 ミロス・フォアマンという監督は「アマデウス」で有名なように人物の自伝を映画でよく扱っている。
新作の「宮廷画家ゴヤは見た」も画家ゴヤの半生を描いている自伝もので、実はこの日も「ゴヤ」との二本立てだった。
ミロス・フォアマンの映画のセットで何にしようかと考えた末に、こんなコメディアンの半生を描いた小品をペアに持ってくるとはなかなか憎い。
アメリカでは有名なテレビスターで、ジェームズ・ディーンほどではないが早くに逝ってしまった薄命な人だったようだ。
日本人でも知っている人はほとんどいないだろうが、全く知らなくても楽しめるように映画は出来ている。
 冒頭、ジムキャリー扮するアンディが「映画は実はつまらないからボクが全部カットした。これでおしまい」と宣言し、本当にエンドロールが流れ始める。
当然、エンドロールは途中で止まり「嘘だよ」と悪戯っぽく笑うアンディが映写機をこちらに向け映画が始まる。
ファーストシーンから彼が観客を騙す笑いをしてきたのがすぐに分かる。本当は映画はこのように多くのことをワンカットで説明しないといけない。

 学生時代に「ダウンタウンのごっつええ感じ」を授業でみせられた。その中の「オカンとマーくん」で形成されている笑いについて「ドギツいセリフや行動でお茶の間を緊張させるのがこの笑いのコツです」と先生がおっしゃっていた。
アンディ・カウフマンの笑いがまさしくそうであり、「ごっつ」よりもずっと昔にそれをやっていたのだ。
江頭が全部計算でやっているような感じといえば分かり易いだろうか。ちょっと日本人には馴染みにくい笑いの種類だが、時代を感じさせる選曲や、トントンと進むストーリーに乗せられていくので違和感はない。
いくつかのひっかかりは残るが、劇場を出た後、主題歌を鼻ずさみながら帰りたくなるゴキゲンな一本である。

 ただ好き勝手生きて、いっぱい人に迷惑をかけてきた彼独特のネタだったのに、死ぬ直前にやったショーは毒気がなく、穏やか過ぎて気持ち悪かった。
映画を成立させるためだったのかもしれないが、あの落とし方はアンディの人生に失礼ではなかろうか?人物を撮るということは生きた軌跡を一貫しなければならないということなのだから。

 この映画、ウディ・アレンが自分主演で撮りそうなタイプだなぁと観ていてずっと思っていた。
実際、アレンが撮った方が面白かっただろう。ミロス・フォアマンは良くも悪くも丸く収めてしまうからだ。
アレン節の効いた「マン・オン・ザ・ムーン」が観てみたい、なんて密かに願ってみるのも映画ファンのささやかな楽しみである。


2009年02月13日 シネマアンジェリカにて鑑賞


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