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さくらの唄






2009年8月13日 更新



あらすじ

富士桜ヶ丘高校美術部員、一ノ瀬利彦。
暗黒たる青春を送る彼にとっての救いは同級生の仲村真理であった。
太陽のような彼女との付き合いを通じて明朗な学園生活への期待を持ち始めた利彦は、文化祭で彼女主演の映画を上映する事を決意する。
そこで彼は希望に満ちた毎日を手に入れる事が出来るのか・・・。
心に痛い青春漫画の傑作!!




著者 :安達哲
発行 :講談社

連載 : ヤングマガジン 1990年〜1991年
単行本 :全3巻

















■ ニクロ

 では、始めたいと思います。さくらの唄は俺達は全然リアルタイムじゃないけど、数々の作家、芸術家に影響を与えた作品で、そこから派生したものを俺達も見たり聴いたりして育ってきたところがあるので、今日は原点に立ち返って話すというのは大きな役割があると思います。
 まず、いきなりこんな事を言うと何ですけど、実はあんまり好きじゃないんですよ。
この作品、上下巻(文庫版)あるけど最初と最後で全然違うじゃないですか。
結果論としてはゆるい感じの前半がいい前フリになってて、後半の落差が心地よく走るように感じられるけど、それは偶然による産物で、構成からはむしろ遠い作品になっている。
それは作者が登場人物でなく物語を主に動かそうとしてるからで、そのせいで人物がコマのように扱われている。
例えば、一ノ瀬が先生とのセックスをノヒラにだけ打ち明けるんだけど、何度読んでも行動にそんな必然性がない。
これは学園祭でビデオが入れ替わってしまうという、これも読んでてバレバレなんですが、その流れに持っていくために動かしたんだと思ったんですね。
それと一ノ瀬が学校に戻ってくるシーン。あそこまでやっておいて金春が許してやるというのは、後にノヒラと爆弾作りをする流れに持っていってると感じてしまう。
登場人物の感情より、作者の思惑を優先させてるところがあって、どうも好きになれない。
でも、そういうのを鬼の首を取ったみたいに揚げ足取りしても、何か虚しい作品なんです。
そういうことで落とせる作品ではない。だから、俺はちょっと悔しいんです。
でもやはりトータルで高い点数をつけられない。






■ ハイジン

ニクロから見るとコマのように動く人物の行動がわざとっぽく見えると。






■ ニクロ

 登場人物が何でそんな行動をするのか、と思うところが多い。
特に良くないと思ったのは、一ノ瀬の躁鬱。躁鬱のキャラクターって、ハッキリ言ってどっちに転んでも読者が納得してしまうところがあって、テンションが高くても落ち込んでても、ああ、そうだろうなと思ってしまう。
作者が主人公の躁鬱というものに乗っかって、それが全体のキャラクターの操り方に伝播しちゃった感がある。






■ ハイジン

 構成があまり出来てなくて、後半は計算でない部分でやってしまった、というのは同感なんだけど、俺はあえてそこは目をつぶって分析すると、躁鬱(と言うのかは知らないけど)っていう気持ちの感情の揺れっての、俺自身が持っていることもあって共感できるんですよ。
最初から通して一ノ瀬の心はぐらんぐらんに揺れているんですよ。神経症っぽく色んなことが気になって簡単に落ち込んだりして。
それは一ノ瀬が権力の象徴として現れる金春のようなガサツな大人になりたいけどなりたくない、アーティストとしても成功もしたい、とかそうゆう風に常に心が揺れているからなんですね。
ヒロインの仲村真理との話で「いい就職先に入らないと誰も話を聞いてくれない、女の子を可愛くしてやれない。だけど、組織に属しているようなアーティストはいない」という話があって、社会人としてのガサツな人間という生き方と、もう一つのアーティストとしての生き方。
一ノ瀬はその中間の地点にいて、それが神経症っぽい部分に繋がってると思うんですね。
 あと、これは文庫で読んだからかも知れないけど、何か違和感があったんですよ。
今、読んでるところが回想なのか妄想なのか分からなくなってきて。妄想シーンだと思ってたらそれが現実だったというような。






■ ニクロ

分かる。俺もそうだった。






■ ハイジン

 結局、そうゆう不安定さが一ノ瀬の性格になっていて、金春の権力に対して一ノ瀬は屈服して普通の人間になっちゃうんだけど、でも、まだアーティストの方へ頑張っていこうとする意思もある。
でもそれでは生きていけない。それに悩んで悩んで、で、結局全部ぶっ壊しちゃう。
さっきニクロが何故ノヒラにだけ打ち明けるのか、と言ってたけど、ノヒラはガサツな人間の側には属さないでアーティスト側にいる人間だからだと思うんですよ。
「一ノ瀬君はアーティスト側の人間なのにガサツな側にも生きてる。それって凄く嫌じゃない?」というような会話があって。
後でその二人が爆弾を作るっていうのは、この物語がその中間地点を全部ぶっ壊そうとしている物語だからだと思うんですよ。






■ ニクロ

俺は一ノ瀬とノヒラがシルエットになって「それが爆弾だっただけさ」というセリフは、それが言いたかっただけだろ!って(笑)






■ ハイジン

 俺は、そこは全てを壊すっていう象徴じゃないかと思ってて。
だから、さくらの唄ってのは二人の少年が爆弾を作るっていう話だと思ってるんですよね。
で、焼け野原に何があったかって言ったらアーティストとしての一ノ瀬のとんでもない成功で、最後に仲村真理が「最初から自分を信じてたら良かったのよ」と言うんだけど、あの言葉がすごい無責任というか、何でもないんですよね。






■ ニクロ

ハイジンはラストのセリフは共感してるんだと思ってた。






■ ハイジン

 あれは、何ていうか、一ノ瀬がどっちつかずになってて、どん底まで落ち込んで、でも這い上がろうとして、結局全部ぶっ壊そうと思って爆弾を作った。
そして、その爆弾だけが二人の唯一の成功であって社会で認められた証だったのに、焼け野原に残っていたのは市ノ瀬のとんでもない成功で、それに対して最後の仲村真理のセリフはそれまでの物語の何の解決にもならない。







■ ニクロ

 俺もラストは大嫌いなんですよ。目先を追って成功することを肯定してるから。
ただ、結局あれはアート系の学生を主体にした才能の世界であって、そういう人たちは勝てば全てが正しくなるじゃないけど、そういう精神がある。
その中で猥雑なことに紛れて大人になるっていうのは一つのメッセージだと受け取ったけどね。








金春と一ノ瀬、現在と未来、夢と現実の往復








■ ニクロ

ハイジンが金春は権力の象徴って言ったけど、これは俺の自論で、金春は一ノ瀬が好きだったんじゃないかと思ってるんですよ。






■ 電脳BOY

具体的に言うと?






■ ニクロ

 金春が一ノ瀬を何度もピンサロに連れて行くという行為は、明らかに背徳感を楽しんでるし、いくら身内でも一ノ瀬があとを継ぐ器でないことは分かるやんか?
にもかかわらず後釜に仕立て上げようと追い詰めていく感じは好きな子をいじめる感覚に近いと思った。(しばし沈黙)あれ、俺だけ?(笑)






■ 電脳BOY

いや、別に好きとかはあんまり・・・(笑)






■ ニクロ

 そう考えると一ノ瀬も結構乙女チックというか可愛げのある男の子に見えるし、さくらの唄を読んだ女の子は前半の一ノ瀬が好きな子って多いんじゃないかな。
金春の話に戻ると、俺は金春に寂しさのようなものを感じるんですよ。
金春の奥さんが昔の二人の写真を見せてくれるシーンで、写真には後ろの方にカメラがあって手前に若かりし日の金春と美しい奥さんがいる。
あれは、多分金春が昔映画青年で今の一ノ瀬とダブることが多かったんじゃないか。
本当だったら権化と化してる金春が文化祭は好きにやれなんて言うこと自体おかしいからね。
自分の会社の為にこれだけ勉強しとけとか、先生をあてがって自分のほうに気持ちをコントロールしようと思ったのに、文化祭だけは止めなかったんよね、金春は。
あれは、きっと昔の自分に重ねてたんじゃないかないかな。俺には金春の人間の部分も見えたんよね。






■ ハイジン

でもその意見を通すと、金春が文化祭を滅茶苦茶にするというのは全く筋が通らないと思うんやけど。






■ ニクロ

 あれは上映のフィルムにさくらの唄ってタイトルが付いてたことからも、きっとプロットの段階で決まってた設定だろうから。
入れ替わったフィルムが先生との行為になるかどうかは未定だったかも知れんけどね。






■ ハイジン

金春は結果的に一ノ瀬を陥れたわけだから、過去の自分を重ね合わせて文化祭をやらせてあげたって訳じゃないんじゃない?






■ ニクロ

 うーん(苦笑)。これは極論で語りにくい所ではあって、0か10じゃなくて、時々5がふっと出てくるって話なんやけどね。
俺はあんまり権化にしたくないから、金春を。






■ ハイジン

 哀愁があるって所は金春も一ノ瀬のような純粋な青春時代を送ってたんだけど、社会に出て汚れてしまった大人が金春だと思う。
流産したり離婚したりって言葉もあったけど、「今」という青春は素晴らしいけどそれは束の間で、その後にはどんどん薄汚れていく。
印象的なモノローグで「この学校にいる8割の奴らはロクな人生を歩まない」みたいなのがあって、それは現在が綺麗で未来は汚いみたいな視点から話していて、金春にも青春時代があったんだけど、未来は汚いという人物として描かれているが為に、奥さんとの写真を出したんじゃないかな。






■ 電脳BOY

彼も一ノ瀬みたいな人間だったけど、社会の何らかの力によって汚い大人になってしまったんでしょうね。






■ ハイジン

 ガサツな人間にならないと一人前の人間になれないけど、一人前になっちゃうとアーティストにはなれない。
そうゆうハッキリとした境界線が社会には引かれていて、その線をぶっ壊す漫画だと思ってるんよね。






■ ニクロ

 一ノ瀬が爆弾を作って金春の親父を・・・っていうのは共感できるんやけど、殺す直前になってこれまで金春に苦しめられた色んな人たちのカットが入るじゃないですか。
その後に一ノ瀬たちの意識がすり替わるんですよね。「あいつらのためにも」って。
自分ひとりで背負い切れん所を他の人間も「やれ」って言っただろみたいに自分勝手にシフトする。
それにムカッとしたんですよ。






■ 電脳BOY

逃げみたいな?






■ ニクロ

逃げというより、自分ひとりの恨みで殺したいんじゃなくて、沢山の人の恨みで背中を押して欲しいみたいな。それも一つ、一ノ瀬が揺れてる所ですよね。
ただ理解は出来るけど腹が立ったシーンでもある。








ノヒラ








■ ニクロ

 ノヒラの話をすると、「あいつ、鼻にブツブツが出来てて気持ち悪い。あんなやつといると女の子が近づかなそう」とか友達に言われて、「次に挨拶されたら終わりだな」みたいに馬鹿にしてるんだけど、翌朝ノヒラに挨拶されたら一ノ瀬は普通に「おはよう」って言う。
俺あそこ、凄い分かるんですよ。俺も高校時代に全く同じことしてたから。
同級生にトロいやつがいて二人でいるときは対等に振舞うんだけど、みんなのところに戻ったら「向こうがしつこいからさぁ〜」って。






■ 電脳BOY

悪いヤツやね(笑)






■ ニクロ

 高校ってそれが普通だったんよ。思春期っていうのは残酷だとおもうんよね。
その辺の心理をちゃんと表裏まで描いてくれたのは嬉しかった。






■ ハイジン

 あれは一ノ瀬がガサツな人間じゃないっていうことの説明やと思うんやけどね。
ガサツな側の人間になりきれてないっていうか、さっきも言ったように境界線があって、線より向こうがガサツで、線よりこっちがアーティストで、一ノ瀬がまだどちらにもついていないことの例えなんだと思う。
ガサツな連中に同調はするけど、ノヒラに対してそんな態度は取らない。
中間地点にいるということで、俺は残酷とは思わないんですよね。






■ ニクロ

俺は単純に高校生のリアルを指してたんやけどね。








さくらの唄 vs グミ・チョコレート・パイン








■ ニクロ

 さくらの唄ってのは前回のグミ・チョコレート・パインと対比できる部分が結構あって、例えば一ノ瀬のいるグループって言うのは美甘子のグループで、賢三がいるのはノヒラ側ですよね。
でも一ノ瀬は人に見られているという錯覚を起こす対人恐怖症みたいなものを持ってるけど、賢三と比べたら全然いいところにいる。
画塾にいる連中はプライドが高い癖に群れてるんやけど、彼らは賢三側な気がする。
逆に賢三が名画座で語る会みたいなのがあって、そこに居たら画塾の連中と同じだと思うんですよ。
 姉ちゃんが金春に犯されて街を歩いている場面も、足に精液が垂れているのを見た男二人がカッコイイみたいな事言ってたけど、あの二人も雰囲気がどっか美大生っぽいんですよね。
あれは明らかに作者がそういう二人を配置してるんやけど、その二人が堂々としてる姉ちゃんの姿を勘違いして、俺は他のやつらと違って分かってるぞっていう。
それって賢三の俺は他のやつらとは違うっていう感覚と似てるんですよね。
同じ青春モノでありながら立ってるところが全然違うんですよね、さくらの唄とグミ・チョコレート・パインというのは。






■ 電脳BOY

ヒロインの子に「近寄らないで」って言われるじゃないですか。あれはショックですよね。






■ ハイジン

前半、いい感じになってた分ね。






■ 電脳BOY

そう。仲村真理の感情が描かれてなかったんで実際こんな事思ってたんだっていうのが分かって・・・あそこは男と女ですね。






■ ニクロ

「気持ち悪い」(笑)






■ 電脳BOY

そう、ホントは気持ち悪いと思われてて。






■ ニクロ

 どんどん一ノ瀬が堕ちていく中で、まあ、あれは一ノ瀬が変わったから周りも変わっていくだけなんやけど、一ノ瀬は自分の変化に気付いてないからみんなが自分に対して冷たくなったりして、でもその中で唯一変わらないのが仲村真理だったのに最後の最後で今まで絶対に言われなかったような言葉を投げつけら
れて、そっから爆弾の話になる。一回ゼロに話が戻るんすね。
でもこの物語、そもそも途中から主要人物以外出てこない(笑) 主人公の不良友達いたやん?主要登場人物になりかけてた・・・






■ 電脳BOY

予感はさせといてね。






■ ニクロ

あの扱いやからね。あいつホンマに何やったんやろう(笑)






■ 電脳BOY

最後に普通の社会人になってたね。






■ ニクロ

 結局、仲村真理と一ノ瀬と金春と先生がおったら成立する漫画なんですよね。
でもこの作品全体の暗さっていうのは昭和末生まれの俺らからすると、理解できる部分とできん所があるよね。
連載されてた頃は、バブル崩壊や湾岸戦争で人々が定められた物語を信用しなくなってた。
何が起きるか分からない時代やから、落ちた後の闇にも酔っ払ってないと救いがないような時代だったから、この作品が受け入れられたんやね。
今、ヤンマガか何かでさくらの唄やってたら多分前半で打ち切られそうな気がする。
当時の空気を知ってる者でないと100%のめり込むのは難しいんじゃないかな。
それじゃあ時間なので今日はこの辺で。



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