20世紀少年






2010年9月30日 更新



あらすじ

 翌年に大阪万博開催を控え、人類が初めて月に降り立った1969年の夏。
小学生のケンヂは、同級生の仲間たちと空き地の原っぱに秘密基地を作った。
そんな彼らの秘密の遊びの一つである“よげんの書”には、悪の組織、世界征服、人類滅亡計画、それを阻止する正義の味方など空想の数々が描かれ、 彼らをワクワクさせるのだった。
1997年、現在。大人になったケンヂの周りで奇妙な事件が起き始める・・・。







著者 :浦沢直樹
発行 :小学館
連載 :週刊ビックコミックスピリッツ
単行本 :全24巻(20世紀少年22巻+21世紀少年2巻)













■ ハイジン

 それでは始めていきます。えー、今回は、浦沢直樹の「20世紀少年」です。この漫画は1999年から2007年までビッグコミックスピリッツに連載されていたわけなんですが、まあ、この作品は浦沢直樹の一番の代表作と言っても過言ではないと思うんですが。
単純に映画もされていて、評価等々ひっくるめて、浦沢直樹の最高傑作だという意見もあるんじゃないかと。






■ ニクロ

世間の流れとしてはそうですよね。浦沢直樹で一つ上げるとしたら、今、大多数の人は「20世紀少年」を上げるんじゃないかと。






■ ハイジン

 で、ハッキリ言って文句ナシに面白いわけですよ。「20世紀少年」は。これは、100人が読めば90人くらいが面白いと言ってしまうくらいで、ワクワクさせてくれる作品で、「21世紀少年」も含めて、24巻ほどあると思うんですけど、まあ、練りに練ったプロットで週間連載とは思えないクオリティーとテンションで、この膨大な作品をまとめたという、それだけでもかなりの評価に値する事だと思うんですけど
 でも、俺は基本的に浦沢直樹は好きではない作家なんですね。楽しませて貰えるし、評価もしているんですけど、それ故に見えて来る粗というか認められない部分が評価している以上に際立っている作家で、そうゆう意味では「20世紀少年」も俺は好きな作品ではないんですよ。
 まず、冒頭で俺から言いたかった事がそれで、今回、俺は「20世紀少年」のあまり好きじゃない部分について話す事になると思います。
じゃあ、まずは簡単に、二人の作品についての評価から聞いて行きたいと思うんですが。






■ ニクロ

 あー、「20世紀少年」は「MONSTER」よりもコメディタッチにした所があって、「MONSTER」はホント、シリアスな所で割りとサスペンスという所で観ていく作品なんですけど、「20世紀少年」もまあ、サスペンスなんですけどこっちはどっちかというとタッチが軽いというか、もっと読み易くなっていて、あと、舞台が日本の1970年と現在と未来が行き来するという時代設定になっていて、どれも自分達の感覚からは離れていなかったり、読む人が読んだらノスタルジーに浸れる所もあったり、僕も世代ではないんですけど大坂万博の所は読んでいて懐かしい感じはあるんですよ。
 やっぱり、ああゆう自分が体験した時代ではないけどそうゆうノスタルジーを感じさせる描写というのが浦沢直樹は上手くて、俺は知らない世界を観ているという感じよりは、昔からよく知っている時代の事を読んでいる感じで。
有り得ないような話なんですけど、そこまでかけ離れた世界の話を読んでいるって感じじゃなくて、俺は日常的な感じが面白くてノレたんですね。
要所要所にある小ネタなんかも日常的なモノが多かったんで、そこが結構面白くて、そこは楽しめましたね。






■ ハイジン

好きな作品って事ですか?






■ ニクロ

 好きですね。長いですけど。間違いなくあと5巻削っても何の問題もないですけど(笑)。
まあ、基本的に浦沢直樹って他の作品「PULUTO」とかでもそうですけど、短編作家の優柔さをチラッと見せる所があって。
実際抜いても何の問題も無い話もあるわけなんですね。ドイツの子供に注射を打たせるような話が丸々1話使われていて。
別にあそこは無くても話は通るんだけど、ああゆうたまに書く短編なんかが凄く面白いんですね、浦沢直樹って。
「PLUTO」にもそうゆう「ノース2号」っていう短編があって、俺はアレで泣いたんですね。その1話だけで。
浦沢直樹ってのは割りと一本の糞長い作品を書いているというよりは、何本かあるアイデアを一本の作品の中にどんどん出していって、そうゆう事で作品を飽きさせないという所の技術がかなり上手い作家だと思うんですね。
そうゆう所で「20世紀少年」は途中でちょっとダルくなる所もあるんですけど、基本的には飽きずに読めましたね。






■ ハイジン

電脳BOYはどうですか?






■ 電脳BOY

 僕は今回、浦沢作品は始めて読んだんですよ。「20世紀少年」は高校時代によく友達が喋ってたんですけど俺は興味なくて。
今回、初めて読んだんですけど・・・話的にはそんなにで、ワクワクってのは解るんですけど。話的には俺はそんなに好きではないんですよ。
でも、登場人物のキャラクター作りとか話の構成は評価していて、その部分は凄い偉大な作品であるとは思っていますね。
脇役とか登場人物全員にスポットが当たってるじゃないですか。だから、全員にファンが居るんだろうな、と思うくらい。
 だから、そこは凄い評価するし、でも、話はそんなに好きじゃないんですよ。ストーリー自体が。
ワクワクはするんだけど。






■ ハイジン

話自体ってのは、地球を守るんだ、とかいうそういう事ですか?






■ 電脳BOY

 まあ、極端に言えば「ともだち」は誰か?って事にしか惹かれない。話的には。だから、オチもオチじゃないですか?
だから、最終的にあまり納得出来なかったという。でも、マンガとしては絵も解り易いしね。
偉大な作品だとは思いますね。









100%の展開の構成









■ ハイジン

 俺なんかは、浦沢直樹自体はそんなに読んではいないんですよ。一応、「MONSTER」は高校時代に読んでいて、あと、「PLUTO」も読んだんですけど。
まあ、それくらいしか読んでいなくって、でも例えば「MONSTER」を読んでる頃から好きなタイプの作家じゃないな、とは感じていたんですね。
かなり計算して描かれていて、いわゆる全ての物事には後で繋がっていく伏線が用意されている、というそうゆう構成が張られているのが俺としては好きなタイプではなくって、必ず何処かしらに張り巡らされるわけじゃないですか?何かをやれば、必ず何処かに。
それは、1970年にケンヂが小さい頃に書いた「よげんの書」が30年後の伏線となっている事こそが、全てなわけなんですけど。
これこそ浦沢直樹という作家の書き方を一番象徴しているような気がするんですけど、それが俺の中ではライブ感というものが無いように思えて。
100%の緻密さで進めていく事こそが浦沢直樹を好きになれない理由なんですね。






■ ニクロ

100%の緻密さというのは、最初から最後までプロットを決めてそこからビシッとマンガを描いていく作業という事ですか?






■ ハイジン

なんですかね。「マンガじゃないんだから」という事を、マンガに対して言いたくなるような。






■ 電脳BOY

必ず答えが用意されているような?






■ ハイジン

 全員が全員何かしら繋がっていく、という感覚。後々に全てが繋がっていく。結構広い世界でやっているけれども、関係図は狭い世界というような。
そうゆう、決められている構図の中で、マリオネット的に操っている事が見て取れるというのがあまり好きではないんですよ。






■ ニクロ

この人の描くマンガはもう、アニメのOPで最後全員揃っているような(笑)。






■ ハイジン

そうゆう事です(笑)。






■ ニクロ

まあでも、そこを楽しめるかどうかというか。むしろ、そこを否定したらマンガの持つ可能性自体が失われるような気もするんですけどね。






■ 電脳BOY

気になるか、気にならないかの問題ですよね。






■ ニクロ

なんというか、マンガにリアリティーでケチ付けるのもどうかと。






■ ハイジン

俺にはね、浦沢直樹のマンガにはそこが角が立って見えるんですね。






■ ニクロ

わざとらしいみたいな?






■ ハイジン

そこはライブ感というか、週刊連載で行きあったりバッタリでね、描かれてもそれもまずいんだけどそうゆうのが奇跡的にハマってしまう所も見たいと思うんですよ。






■ 電脳BOY

全てが必然みたいな?






■ ハイジン

そうですね。全てまとめあげられてしまうんで。






■ ニクロ

処理は上手いですよね。






■ ハイジン

 上手いですし100%の緻密さで進めてはいるんですけど、でも間違いなく後半で破状しちゃってるんですよね。そこもマイナスなんですよね。
それで一つ仮説を建てたいんですけど、フクベエが「ともだち」だったという設定に加えて、更にフクベエが死んだ後にホンモノの「ともだち」が居た、という設定は恐らく最初から用意していたと思うわけなんですよ。
最初からそのプロットでフクベエをスケープゴートにして、フクベエ=ともだちを前半の山場に持って来て置いて、未来編で更にもう一捻りした真の「ともだち」が居たっていう設定があって、それがカツマタくんであった事は最初から決めていたと思うんですよ。
1巻からカツマタ君の名前は出してるわけで。でも、最初の時点では全くその辺を詰めてはいないんですよね。
だから終盤になって、これ最終的にどうするか、って迷って出来たのが「21世紀少年」だと思うんですよ。






■ ニクロ

 ホントに、取り戻しようがないですからね、こればっかりは(笑)。
かといって、終盤からカツマタ君の伏線を作るのも変な話だからね。






■ 電脳BOY

それまで、用意して来なかったわけだからね(笑)。






■ ニクロ

 だから、プロットの破状とかを言い出したらマイナスにしかないような作品に・・・ホント、浦沢直樹はほとんどがそうゆう作品だし。
そうなってしまうんですけど、でも読んでる間中は結構、その最後のラスト1コマで「これ、どうなるの?」という引きの絵でドキドキさせられていったという事は浦沢直樹マンガの真骨頂じゃないですか。
そうゆう所を楽しんだ上で、破状した所にケチをつけるのかどうかという微妙な所ではあると思うんですよ。
そうゆう所は、週刊連載のギリギリの所で描いているからこそ出来た、スリル感じゃないですか?
週刊連載で毎週、どれだけの引きを作るかっていう必死さが一話の最後のドキッとするような終わらせ方を産んでると思うんですよ。
だから、それのツケみたいなもんで(笑)。プロットを言い出したら、マンガとしてはめちゃめちゃなんですけど。






■ 電脳BOY

一個一個は面白いんだけどね。全体を見たら(笑)。






■ ニクロ

結局、浦沢直樹ってそうゆう作家なんですね。一個一個は面白いんですよ(笑)。






■ 電脳BOY

その場その場で(笑)。






■ ニクロ

「MONSTER」でも何でもそうだったけど、一応ね決める見せ場ってのは均等に用意してるんですよ。
見せ場であったり、盛り上げポイントだったりを。コミックス一巻から20何巻分まで全部に、恐らく均等に何かを入れてるんですよ。
やっぱり、そうゆう作家だと思うんですね。
 で、そうゆうやり方にオチてると言わないけど、たぶんこの辺がそうゆうやり方の限界のかな、って気もするんですね。
これから作品を描いていってて、同じような描き方は出来ないというか、まあ、してるんですけど(笑)。









バーチャル









■ ハイジン

 一回、「血の大晦日」が終わった後で、話がいきなり引きで始まるじゃないですか。物語が急に引きで。
それから、徐々に徐々に「血の大晦日」というモノを中心部に置いて、引きからゆっくり物語の中心部に接近していって、カンナとか主要人物が出てくると。
で、タメて、タメてタメて、それからバッと物語の核心を見せていく。
そうゆう、読者をヤキモキさせて期待感を煽る描き方は凄く上手いと思うわけなんですよ。






■ ニクロ

 だから、あの人は先に年表を描いてるんですね。間違いなく。で、ココはクリアした、ってマス目に記しを入れてるんですよ(笑)。
たぶん、そうゆう描き方で間違いないと思うんですね。第1話の最初の6ページくらいで一番最後の巻でカンナが起き上がるカット、あと、「さあ、地球を救ったみなさんです」と迎えられるカット、それを先に見せてるんですね。






■ ハイジン

最終話の前の話でカンナが起き上がる所が、第1話で予告されていたという伏線なんですね。






■ ニクロ

 しかも、あそこは二重構造になっていて一回目の「血の大晦日」をカンナが思い出して起きたんだ、って事にすり替えられていて、そこは作者の思惑通りやと思うんですけど。
まあ、アレについては遊びたい作家なのかな、と思いますけど。






■ ハイジン

 一巻でみんなが集まって話している所でカツマタ君が死んだ話をして、理科室の幽霊、お化け屋敷の話をして、70年と71年二つの出来事があって、という。
その二つを後々にずっと、年表と登場人物を照らし合わせながら語っていって、更にその後で実際に当時の世界を疑似体験して、真実を観ていくという事は、本当に面白い発想じゃないですか。
そこは、本当に浦沢直樹の面白さだと思うんですけど、ただ、こんなに面白いのに、「で、バーチャルって何なんだ?」という疑問が(笑)。






■ ニクロ

 そこはもう(笑) よく、20世紀少年を読んだ人と話しているとよく出る疑問なんですけど、まあ、俺がよく言うのが、あれはタイムスリップだ、と。
アレは一応、マンガの中では未来の世界の道具みたいになっているけど、そうじゃなくてあれはマジにタイムスリップしてるのをすり替えてるだけなんだと(笑)。
そうゆう風に観る描写じゃないですか。






■ ハイジン

ホントに面白すぎて、浦沢直樹スゲーな!ってなってる自分がありつつも、こんなに凄いのに「バーチャル」って何なんだ?という(笑)。






■ 電脳BOY

例えようのない面白さがね。






■ ハイジン

バーチャルってなんなんだよ、ってどうしても沸いてくる疑問なんですね。それを認めてしまうとこの矛盾点も容認していいのか、という不思議な感覚に。






■ 電脳BOY

まあ、不思議なマンガですよね(笑)。






■ ニクロ

 バーチャルは俺は矛盾していないと思うというか。さっきも言ったようにタイムスリップを、そうゆう話にすり替えた思ってるから。
登場人物が誰も言わないだけで。だからそこはもうね、大人の対応で(笑)。






■ ハイジン

まあ、重箱をツツく事になりかねないですからね(笑)。






■ 電脳BOY

気になるっちゃ、気になるけど(笑)。






■ ニクロ

結構そんなに科学は進歩してない未来なのに、あそこだけはエラい発展してるわけなんですよね(笑)。









サダキヨ









■ ハイジン

 ケチをつけてばかりになっちゃうんですけど、全員を結局善人にさせてしまう、そうゆう所があるじゃないですか。
万条目も結局、最初の方では氷みたいな人間の感情を持っていないような人間として登場させつつも、最後の方では「夢見させてくれよ!」と情を持ったオッサンになってたり、電車で突き落とした男も、チョウさんを殺した刑事も、最後は情を持った人間になっていく。
結局情に熱く、涙がホロッと出るような事をこの作者は描くんで、恐らくは人情味に溢れるものが根底にはあって、その人情味に溢れるモノの裏返しに人の心を持たないような人間を出すという、そうゆう表裏の関係にあると思うんですよ。
で、結局はベタに落ち着いちゃうな、というか。






■ ニクロ

 浦沢直樹は前に、ビリー・ワイルダーが好きと言ってて、ビリー・ワイルダーという映画監督もそうゆう所があるんですね。
物語を物語としてオトす、という映画監督なんですけど、結局悲劇的にオトすという事が嫌いなんでしょうね浦沢直樹は。
そうゆう、ハッピーエンドではないけど、ハッピーエンドに見せたい、というね(笑)。そうゆう欲求はあるんじゃないですか。
 だから、最後もカンナが穴を掘る、というわけのワカラン終わり方にして(笑)。
ホントはあそこは何でもないんですよ。希望とかそうゆうモノを見せたがるんですよ。希望を見せないと気がすまないというか。
そうゆう、変な善良性を持ってるというか、信じてるというか。






■ 電脳BOY

サダキヨとかね(笑)。いきなり出て来たから。オイオイオイ・・・と(笑)。






■ ハイジン

サダキヨって一度死にましたよね?(笑)






■ ニクロ

俺はもう浦沢直樹はずっと読んで来てるから、車の焼死体が出て来なかった時点で「こいつ、出てくるな」と思ったら後々に(笑)。






■ ハイジン

俺、一度前の巻を一度読み返したからね。あれ、サダキヨって死んだよな?って(笑)。









20世紀少年の背景









■ ハイジン

 背景について話せば「20世紀少年」というマンガを1999年に始める、という時点で勝ってる空気はあるんですよね。
浦沢直樹自身、「happy」が終わって、「MONSTER」をやっていて、30代半ばの一番油が乗っている時期に、これだけ大胆なプロットを用意して1999年に「20世紀少年」というタイトルのマンガを始めるって事自体が流石だと思うんですよ。
で、政治的な背景を話せば「ともだち」という宗教団体に様々な人々が集まって来て、そいつらが色んな場所に、まあ、言ってしまえば、毒を撒いているという設定の時点で、日本人なら誰もがすぐに連想をしちゃうわけなんですね。
わけもわかんない宗教団体が毒を撒いている、それだけで説明がついちゃうんですよ。






■ ニクロ

 でも、敢えて政治的な匂いはないんですけどね。外国の人が読んでも面白いと思える作品だし。
それに対して浦沢直樹がそこを叩くようなわけでもないし、それに対して日本人に喚起している事でもないし、単純に設定として取り入れただけだと思うし、エンターテイメントとして。
浦沢直樹ってのは、ホントにそうゆう所があるんですよ。で、「20世紀少年」「MONSTER」辺りから結構絵は雑になってるんですよね。
たぶん、「Happy」辺りが一番上手かったと思うんですけど。「20世紀少年」って読んでて面白いですけど、迫力はないじゃないですか。
躍動感というか、そこまで凄みのある躍動している絵ではないというか。だから、この「20世紀少年」辺りから絵に対しての意識が変わって来たんじゃないかと思うんですけど。






■ 電脳BOY

僕はこの絵好きですけどね。






■ ニクロ

 なんか、変な絵が多いんですよね。他のマンガには無いような。ちょっと、日本人っぽくないというか。
変な話、ヲタクって感じなんですよね。絵を描く人の。全く媚を売らないというか。






■ ハイジン

この人の描く女性ってのは、本当に宮崎駿の世界の女の子って感じしますよね。
めちゃくちゃ、純粋無垢というか。






■ ニクロ

そうゆうのはありますね。






■ ハイジン

それでは、今日はココまでで。



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