純喫茶磯辺
2009年8月24日 更新
あらすじ
工事現場で働くダメ親父、磯辺。父が亡くなって思わぬ遺産が転がり込んだことで、彼は仕事を辞め、働かずにぷらぷら過ごす毎日。
娘の咲子はそれを見て呆れるばかり。
ある日、磯辺は喫茶店を開業する。その名も「純喫茶磯辺」。
店長と なったダメ親父と娘、離婚した母親やバイトやお客が絡み合うおかしな人情劇。
制作国 :日本
公開 :2008年7月5日
監督・脚本・原作・編集 :吉田恵輔
配給 :ムービーアイ・エンターテイメント
出演
宮迫博之 仲里依紗 麻生久美子
この映画は関西映画である。関西弁のキャラが出てこなくても、舞台が東京であっても関西映画だ。
秋刀魚の味のような純関東映画とは対極をなす関西の匂いがスクリーンから漂う。
親子の掛け合い、咲子とバイトの女の子との掛け合いは関西人であれば聞いていて心地よいツーカーの会話になっている。
漫才的であるといってもいい。ささいな日常会話が観ていて、聞いていて楽しく笑える。
演じている役者も実に自然でほとんど素でやっているんじゃないかと思ってしまう。
だから終始ムードはほんわかしていて安心して観れる。
いや、途中までは観れていたのだ。バイトにノッコという女の子が入ってくる。
女の子、といっても26で美人だが、喫茶店で漫画のカメレオンを読むような変わった子でもある。
フリフリのメイド服も店のために着てくれたり、お客のセクハラなどどんなことがあっても嫌な顔一つしない。
磯辺は仕事をしていくうちにノッコを本気で好きになる。
ノッコも思わせぶりな態度を取るので咲子は気が気じゃない。
しばらくしてノッコは男とすぐ遊んですぐ捨てるような、それでいて誰にでも良い顔をする悪女であると咲子は突き止める。
ただし、ノッコ本人に悪いという自覚がないのだ。結婚指輪まで用意していた磯辺を咲子がノッコから引き離し、全てぶちまける。
ノッコはセクハラしまくっているお客ともヤッてますよ、と笑いながら磯辺に告白する。
次の日、店内でセクハラ客を殴り、磯辺は警察に連行される。
ノッコは実家の北海道に帰ると咲子に告げる。店に戻った磯辺に新幹線の時間を伝え、磯辺は駅に向うが、ノッコはもう出た後だった。
二年後、咲子は東京でパチンコ屋から出てくるノッコに会う。
彼女は妊娠していた。実はあの日、北海道には帰らず、その後付き合ってる人の赤ちゃんがお腹にいると告げる。
お店はどう?とノッコは尋ねる。店はとっくに潰れてしまっていた。
だが、うん、まあまあ、と咲子は答える。そして二人は別れる。
序盤のほんわかムードを維持したまま、ゆるゆると堕ちていく怖さ。
この演出によっておれのこの映画の評価はワンランク上がった。
どこか漫画ボーイズ・オン・ザ・ランを彷彿とさせる苦い後味を感じてしまった。
磯辺=田西とノッコ=ちはるの人情劇、といったところか。
中立である咲子が作品全体のパワーバランスを握っていて、その塩梅が見事!笑いっぱなしで劇場を出てもいいし、しばらく席について作品を考えてみるのもいい。
もちろん一番素晴らしいのは、両方の観客が満足できる、という「純シリアスエンターテインメント映画磯辺」に仕上げている、というところだが。
2009年1月1日 上野スタームービーにて鑑賞