ルサンチマン






2010年2月14日 更新



あらすじ

2015年。印刷工場に勤める坂本拓郎は、今までずっとパッとしない人生を送ってきた。
そんなある日、旧友の越後からギャルゲー(美少女ゲーム)を勧められるが、「現実の女が大事」と言って一度は踏みとどまる。
だが、その後も彼が女に相手にされることは全くなく、30歳の誕生日、ついに大金をはたいてギャルゲー道具一式を購入する。
超リアル美少女ゲーム「ノアズ・アーク」を手に入れた拓郎は、さっそくゲームの世界で“月子”という美少女キャラと出会うが、
彼女にはなぜか他に好きな人がいたり、現実世界が見えたりと謎だらけ…?



著者 :花沢健吾
発行 :小学館
連載 :週刊ビックコミックスピリッツ 2004年第3号〜2005年第12号
単行本 :全4巻















■ ハイジン

 それでは始めていきます。この作品は、2004年〜2005年にかけて週刊ビッグコミックスピリッツで連載されていた作品なんですが、連載当時から、一部の賞賛と批判を浴びていた作品で、ただ、それもネット上などの極一部の話で、一般的なマンガのシーンの中では、あまり話題に上がる事もなかった作品なんですね。
 で、俺はこの作品は、物語ではなく背景を語る作品だと思うんですね。
それは、人口知能という、つまりA.Iを物語の中核に持っていきながら、つまり、大きな入り口から物語を進めながら、その収拾場所が非モテの願望という、小さな場所に帰着している。
そうゆう意味では、構造、つまり物語の背景こそが語る要因なんですね。
 この作者は、次のボーイズ・オン・ザ・ランでは、逆に小さな入り口から大きな物語へとアクセスしているんですが、個人的なルサンチマンの感想としては、現代的というか、今しか描けない事を書いてるマンガだと思っているんですね。
この作品の背景、構造はどういった事かは、後々に説明しようと思うんですが、先に率直な感想などを聞いてみたいと思うんですが。






■ 電脳ボーイ

 率直なというか、ストーリーは、あんまり内容がないな、というのが一つあって。
イイというか、面白いと思った事は主人公が本当にダメな人間という所。容姿も良くなくて、性格もダメ。良い所がない。
そこは、マンガの主人公だから、みたいな事がなくって面白かったですね。主人公を美化しないって事が。
 あと、ネットのオンラインだけが発達している未来という背景も面白かったですね。
マンガだったら、未来は車が凄いデザインになってたり、ケータイなんかも、もっと未来を象徴したりとか、色々と書きたくなるわけじゃないですか。
でも、そこを無視して、ネットだけが発達している描き方をしていて、焦点がちゃんと決まっているな、って事は面白いと思った点でしたね。
 ただ、不満というか、江原の描かれ方は好きじゃなかったですね。オチ的なモノが。
猿だったじゃないですか。あのオチは良くわからないし、人間で良かったんじゃないかな、というのはありました。






■ ハイジン

最後、取って付けたようなね。






■ 電脳ボーイ

本当に、現実が嫌いな男の方が納得出来たというか。
ただ、全体を通して俺は面白かったですね。






■ ハイジン

なるほど。ニクロはどうですか?






■ ニクロ

 さっき、ハイジンが言った賞賛をしていた人達ってのは、たぶん、普段からマンガをちゃんと読めてなかったんだろうな、という気がして。
コレは、ハッキリ言ってヒドイ作品ですね。もう、どうしようもないというか。
 正直、ハッキリ言って読めたもんじゃないんですよ。最初の、4話ぐらいまでが一番面白くて、後はどんどん展開もトロくなって、話も取って付けたような展開が多くなって。
で、作者自身が描きたい事を一本筋を通して書いてないから、何処にでも話を飛べるように配置していて、で、そうゆう伏線だけはあるんだけど、ただ、それが作者が最初から言いたい事に関わって来ない事が多いんですよ、この作品は。
 だから、余計にモヤモヤする事が多くて。正直、俺は最初から最後まで一回もノレなかったですね。
まあ、唯一、主人公の友達の越後だけは良かったですよ。アイツがラインハルトに代わる瞬間の面白さ、あそこだけは拍手を送りたいくらい面白かったんですけど、あそこだけですね、このマンガは。






■ ハイジン

ラインハルトが、白馬に乗って「ハイヤー」って言ってるのと、現実とのギャップのトコですよね。






■ ニクロ

 ぶっちゃけ、そこだけでギャグマンガにした方が絶対に良かったんですよ。
正直、ストーリーマンガにするマンガじゃないですからね、コレ。






■ 電脳ボーイ

ギャグの方が良かったと?






■ ニクロ

 設定勝ちもしてないんですよ。ココまで破天荒になっちゃうと。
その設定すら生かしきれてないし、正直、何処を見ればいいのかわからないくらいヒドイんやけど。
毎回、毎回の話のオチも、なんか落ちてないし。そもそも、このマンガを単行本で買う人は、何を求めてるのかな、って気がするんですよね。このマンガに。
勿論、マンガに何かを求める必要はないんやけど、面白ければ。
 ただ、このマンガって、いわゆる非モテ男が読んで励ます事を目的としているわけでもなく、かと言ってそれを「俺はダメだな」って、それをちょっと美化して、それに酔っ払うわけでもなくて。
そうゆうのを笑うギャグマンガでもないし、何にも焦点が合ってないんですよ。
「誰が買うんだろこのマンガを?」って本当に思ったんですね。買う人居ないでしょ、こんなの。






■ 電脳ボーイ

どこの層を狙ってるの的な?






■ ニクロ

そうそう全くわからないんですよ。誰が買うのかが。






■ 電脳ボーイ

まあ、バラバラと言えばバラバラでしょうけど(笑)。






■ ニクロ

 そもそも、何を期待して買うのかなっていうか。何が面白くて買うのかなっていう所が不思議で。
よく4巻も続いたなって、俺は思うんですけどね。






■ ハイジン

ニクロは全面的に否定で(笑)。






■ ニクロ

 まあ、マンガ読みとしては面白くないですよ、コレ。どう読んでも。どっから切りとっても。
要するに、映画で言えばカメラが下手みたいなもんですからね。幾ら話が面白くても、観れたもんじゃない。






■ ハイジン

それは、もうストーリーとしてって事ですか?






■ ニクロ

 ストーリーもそうだし、構造というか、アンリアルってのも2004年にはちょっと、古いんじゃないかなって気がするんですけどね。
あの頃にこれを描いてて、なんか未来を予見してるって事でもないし。
あの頃には、秋葉原は隆盛期で、それを次のステップに持っていくわけでもなく、ちょっと飛躍させたくらいで。
 これが特別新しい話ではないですよね?






■ ハイジン

特別新しいってわけではないですね。






■ ニクロ

 この花沢健吾って作者も、ボーイズ・オン・ザ・ランでもそうなんですけど、この人はたぶん古いマンガが好きなんじゃないですかね。
出て来る登場人物も、何かの典型ってキャラばっかだし。






■ ハイジン

まあ、記号ですからね。






■ ニクロ

 記号というよりはね、古いんですよ、キャラクターが。この人の描くマンガって。
あの、月子に関しても、あーゆう萌えというか、可愛い女の子も、タイプ処置はかなり昔のタイプじゃないですか。
デレデレして自分に乗っかってくれるような。あーゆうベタベタ系の喋り方で。で、ロリコンチックでって。
 正直、一世代前というか。一昔前の事を、未来の舞台でやってるってのが、作者はそうゆう嗅覚はないのかなって、気はしたんですね。時代を読み取るような。
 だから、この作者に今後期待する事はないんだろうな、というか。やっぱり、どっかで均衡的になっちゃうので、この作者の作品は。ボーイズ・オン・ザ・ランもそうゆう所があって。
変に話をまとめようとしちゃんですね。それが、どんどん良くなくなっていってて。
ボーイズ・オン・ザ・ランはそれがサラリーマンの世界という、手の平の上だったんで、安定してて面白かったんやけど、この作品はアイデア専攻でやっちゃって、完全に破綻してますね。








ルサンチマンのセカイの背景








■ ハイジン

 この作品は物語は面白くないんですけど、設定なり背景なりが面白いと、俺は思ってるんですね。
コレはいわゆる時代論的な話しになるんですけど、戦後だとか、高度経済成長期だとか、そうゆう時代には、社会をより良くする為にとか、もっといい暮らしをしたいだとか、そうゆう風に誰しもが掲げて、共感出来る大きな目標があったからこそ、単純に生きるという選択肢を選択出来たんですよ。
 だけど、80年代になって、バブルが弾けて、冷戦が終わって、モノが溢れてるけど、物語が無い、終わりの無い日常を肌で感じる時代が90年代なんですね。
 それは、93年に発売された「完全自殺マニュアル」でも指摘されてるんですけど、「この先にデカい一発はやって来ない」「ハルマゲドンなんて起きたりしない」「この日常が永遠に続くんだ」と。
これは、以前にやったリバーズ・エッジでも「平坦な戦場」として語られているわけなんですね。
色々と必要なモノは揃ってるけど、生きる上での物語がない。
それって、ホントに生き辛い時代で、冴えなかったり、モテなかったりとか、そうゆう最下層の人たちには、どうしようもない時代なんですね。
その状況を、例えば同じマンガでもヒミズでは、「決まっているんだ」という言葉で片付けていて。
「もう変えられないよ」と。ヒミズは「決まっているんだ」という言葉を突きつけたマンガで。
俺は、ヒミズは完全に切り捨てのマンガだと思っていて。
古谷実は、その後の「シガテラ」では、実はそれは杞憂でした、みたいな思想に方向転換はしてるんだけど、ヒミズに関しては、「決まっているんだ」の一言で、切り捨てていて。
 ただ、ルサンチマンに関しては、「現実がダメなら、仮想現実に逃げろよ」という、そういった、一つの逃げ道を提示したマンガだと俺は思っているんですよ。仮想現実に逃げる提案をしたマンガだと。
 それで、ルサンチマンの話のミソっていうのは、仮想現実と、現実を天秤にかける所だと思うんですよ。
仮想現実という逃げ道が出来た事によって、主人公のタクローは、一時的に満たされるわけなんだけど、一人の女性が現実で好意を持ってくれると。そこで天秤にかけた時に、タクローがどうゆう風な決断を出すのかと。
いわゆる、仮想現実と現実、その二つの選択を迫られる事がミソなんだけど、そのミソである部分が一番面白くないんですね。
それまでの天秤にかけるまでの話だけが、単純に作者のやりたかった事であって






■ ニクロ

それまでの話ってのは、具体的にどうゆう事ですか?






■ ハイジン

最初の、ダメな主人公という構図から、現実から仮想現実に逃げるという術を知って、逃げるまでの過程が。






■ ニクロ

逃げるってのは、完全にアンリアルから抜け出せなくなった状態の事ですか?






■ ハイジン

具体的に言えば、月子を手に入れてからですね。






■ ニクロ

手に入れるてのは、向こうが好意を持ってくれてる、っていう状態が始まってからですか?






■ ハイジン

 そうです。これは、ボーイズ・オン・ザ・ランでも、同じ事が言えて、ヒロインの植村ちはるが退場してからが本番なのに、そこまでしか面白くないという。
だから、本来描きたかった部分を描けない、そこに到る過程(背景)だけが面白いマンガなんですね。






■ ニクロ

 たぶん、この中で語られるアンリアルなりのモチーフっていうのは、恐らく三次元ですよね? ってか間違いなく。
人間の形を象った、ピクサーアニメではなく、完全に実写に近いようなって事ですよね?






■ ハイジン

もちろん。






■ ニクロ

 これって、かなりズレてる事だと思うんですよね。ズレてるというか、ようはルサンチマン的な中の、これを読む人たち、読んで何か自分に同じようなモノを感じる人たちってのは、二次元の方に寄ってる人たちだと思うんですよ。
現に、三次元ってモノが実現しないってのはあるんだけど、ただ、ゲームとか、ギャルゲーに関しては、いわゆる三次元の仮想デートモノってあるじゃないですか。
「ときメモ」の実写版みたいな、凄く気持ち悪いモノがあるんですよ。でも、それはやっぱり受けなかったらしいんですね。
やっぱり、画面の中で実際の写真で女の子が出て来て、一緒に観覧車に乗ったりする、ようは、女の子だけが画面に描かれるんですよ。
でも、そんなのは受けなかったらしいんですよ。なんでかと言うと、やっぱり、ゲームの中に現実要素を彼らは持ち込みたくないんですよね。
 で、ルサンチマンに関しては、主人公のタクローがそもそもヲタクじゃないじゃないですか。
ヲタク要素はあるかもしれないけど、越後ほどヲタッキーな感じじゃなくて、純粋に女の子と付き合いたい、女の子を好きになりたい、って気持ちがあって、で、そこでアンリアルに逃げるって事なんだけど、それで越後と同じか言えば、全然、違うんですよね。
なんで、それが同居してるのか、って事に関しても俺はノレないんですよ。そうゆう事を、考えると。
そもそも、こうゆうテーマを、二次元であるマンガでやる事自体、気持ち悪いと言えば気持ち悪いんですけど。






■ ハイジン

マンガだからこそ、出来る表現ではあるけどね。






■ ニクロ

 まあ、解るんやけど、これって最終的に相容れない事だと思うんですよ。
これをね、やるんやったら、主人公はヲタクにするべきやったと思うんですよ。じゃないと一貫性がないんですよね。
作者が描こうとしている、ダメな人たちっていう、一応のターゲットが一度そこに終結しないと、読んでる方も掴めないじゃないですか。
そりゃあ、二次元的な萌えとかには全く興味は無いけど、アンリアルにのめり込む人が居てもいいとは思うけど、ただ、やっぱ2004年に出したマンガで、2015年それだけが発達しているという言い方をされて、非モテ側という記号を出されると、やっぱり考えちゃうのはヲタクなんですね。このアンリアルという創造物に関して。
 俺は、そこの1コマ、1セリフだけでも、ちゃんとして欲しかったんですね。
そこを曖昧にされると、ホントに読みづらいんですね。見えてこないし。






■ ハイジン

ヲタクという描写があったら、まだ解ったと?






■ ニクロ

 解ったというか、納得出来るという。正直、非モテの30前の男と、女の子を諦めて二次元に走ってる男は、全然、違うじゃないですか。ヲタクはそんなに描かれていないけど。
やっぱり、アンリアルに対して、渋谷にアンリアルのソフトを買いに行って、そこは秋葉原を作り変えたような場所になってますよね。
やっぱり、作者が描いてるのはヲタクなんですよ、イメージは。
 ただ、ヲタクなんだけども、アンリアル自体はヲタクご用達ではない、というこの前提が気持ち悪いんですね。
ってか、どうゆう構造で女の子が描かれているかが、ピンと来なくて。たぶん三次元なんだろうな、とは思ったんだけど。






■ ハイジン

まあ、三次元であって、流通しているのはヲタク層が主な購買層でしょうね。






■ ニクロ

だから、そこが・・・それなのに、主人公はヲタクではない、っていう事に、何かしらの反発も起こさずに最後まで行ってしまった事が、どうも、ヲタクを描こうとしなかった作者の、変なモヤモヤ感が残るんですね。






■ ハイジン

これはもう、この作者自体がヲタクじゃないからでしょう。






■ ニクロ

 うん、そこは絶対にあると思うんですよ。で、ヲタクじゃないんだけど、作者自身は非モテであって、非モテの時期があって、で、そうゆうモノに関して、そこに直結しようと思って考えた創造物がアンリアルだと思うんだけど、そこを何処が食いついてるか、って事を描こうと思ったら、やっぱりヲタクになっちゃうんですね。
で、そこに結び付けるのが凄く安直過ぎて、ちょっとバカっぽいというか、どうもどうにかならんかったんやろうか、という。
だから、そこは俺はちゃんと描いて欲しかったなと。








現実のはけ口としての仮想現実








■ ハイジン

 俺はね、ディティールは細かいとは思うんですよ。いわゆる、このアンリアルというゲーム自体は。
ようは、すぐにイメージ出来るんですね。どういったゲームかって事が。
これは、単純にオンラインゲームの延長線上って事が要因にはあると思うんですね。
 昔の漫画でも、全く種類は異なるんですけど、こういったアンリアル的なモノを描いていたマンガってのは、やっぱり沢山存在していて。
手塚治虫の「火の鳥」にもムーピーという架空生物が存在していて、ムーピーゲームという、架空の世界で女の子と戯れるという。
桂正和も、電影少女ではビデオガールという、異性を手中に収める感覚を描いたマンガは沢山あるわけなんですけど、それよりも、もっと現実的に、すぐにイメージ出来る存在として描けたのはオンラインゲームが、一個成長しただけ、というそこのディティールは細かいと思うんですね。
 だからこそ、今の世界に、さっき言った、生き辛い世の中からの逃げ道として通用する装置になってると思うんですけどね、アンリアルは。






■ ニクロ

通用するってのは、好まれるって事ですか?






■ ハイジン

逃げ道として、はけ口になると。






■ ニクロ

 例えば、今の廃人ゲーと呼ばれてるゲームがあるじゃないですか、オンラインで。
ああゆうのも逃げ道の一つなんですよね?






■ ハイジン

 逃げ道の一つとして、機能はしてますよ。してますけど、発想の違いだと思うんですよ。
FFとか、オンラインゲームをやる人が、現実がイヤだからオンラインゲームに行ってる、そうゆ人も中には居るだろうけど、そこだけが目的ではないと思うんですよ。
 ただ、この物語ってのは、単純に異性からの承認を得られないという中で、直結してるじゃないですか、そのまま。
「じゃあ、アンリアルに行こう!」って。で、越後なんかが、それを体現した最もたるキャラクターで。
「俺達にはアンリアルしかないんだ!」って言葉通り、そのままアンリアルで天誅するという、最高に幸せなキャラだったと思うんですけど。
そうゆう意味で、アンリアルは処方箋として作用していると。






■ ニクロ

まあ、癒してくれるという意味では、処方箋と。逃げ道ってのは、忘れさしてくれる、って事でいいんですよね? 現実を。 






■ ハイジン

 実際に起きた、秋葉原の殺傷事件、これこそが、いわゆる生き辛くなった時代を象徴する事件じゃないですか。
秋葉原事件もアンリアルがあれば、抑制出来た可能性もあったわけなんですよ。






■ 電脳ボーイ

ただ、やるヤツはやるんですよ。






■ ニクロ

犯罪は素質ですからね。ハッキリ言って。遺伝みたいなもので。






■ ハイジン

まあ、やるヤツは居ても、この前の秋葉原のような理由付けにはならないわけじゃないですか。






■ ニクロ

理由って?






■ ハイジン

彼女が出来ないので、もうお終いです、みたいな。






■ ニクロ

 凄い短絡的な思考じゃないですか。アンリアルさえあればクリアみたいな考え方は。
ルサンチマンに関しては、恋愛という焦点を置かないと、話がチリヂリになっちゃうから、そこだけで押さえてるから、それが上手くすんなり通ってるだけで。
実際はもっと複雑でしょ。まあ、一つ満たされるってのは、いい事だと思うけど。








ラブプラス








■ ハイジン

ラブプラスが受け入れられているという現状は、これは間違いなくアンリアルに近づいているんじゃないかと思うんですけどね。






■ ニクロ

アレって、「ときメモ」みたいなモンやないの? 俺、よく知らないんやけど。






■ 電脳ボーイ

 限りなく現実に近いというか、毎日、待ち合わせとかをしたり。スケジュール組んだり、色々出来るから。
現実とリンクして出来るようになってるような。






■ ハイジン

 ゲームって、ちょっと、象徴すぎる言い方になるんですけど、非現実に接続するって事じゃないですか。
変わらない景色、変わらない毎日の中で、自分自身がプレイヤーとして、非現実の中にコミットしていくのがゲームじゃないですか。
 ただ、ラブプラスは、自ら日常の中に入っていくゲームだと思うんですね。現実から、同じような現実の中に。
例えば「ときメモ」みたいなモノが、女の子と付き合うまでがゴールだとしたら、ラブプラスは女の子と付き合った後の世界みたいな。
 だから、永遠に日常的な戯れをゲームの中でする、というゲームなんですよ。






■ ニクロ

 じゃあ、ラブプラスが受け入れられている今は、犯罪の抑制になってるわけですか?
加藤的な人が、もし居たとして、もし、ラブプラスにハマッているなら大丈夫だろうみたいな。






■ ハイジン

ラブプラスでは、抑制まではいかないでしょ。






■ ニクロ

 まあ、そうでしょうね。ただのゲームですから。ホントに、ただのゲームですから。
ラブプラスの延長線上に、アンリアルがあるか、と言ったらそうでもないんですよ。
発想の先はそこかもしれないけど。






■ ハイジン

これはさ、どうしようもない事だけど、単純にラブプラスがコンピューター信号に対して、アンリアルは人工知能という、どうしようもない差はあるんですよ。






■ ニクロ

それは本当に、もう、0と1くらいの違い(笑)。






■ ハイジン

 ルサンチマンでさ、何が一番この作品で大切なのかと言ったら、「人の温もり」なんでね。
人の温もりだけが、大切なモノで、そこを満たさない限りは、現実と非現実、アンリアルっていうモノに溝はやっぱりあるんですね。






■ 電脳ボーイ

でも、この中では、アンリアルも現実っぽいじゃないですか。だから・・・






■ ニクロ

 そうですね。アンリアルの中に居る彼女らも、実はこの世界がアンリアルだと気づいてなくて生きている、という。
物凄く都合のいい(笑) 世界観というか。






■ 電脳ボーイ

だから、どっちも現実と言えば、現実じゃないですか。






■ ニクロ

 ちょっと、気持ち悪いんですよね。あの子らが居るのって、マトリックスじゃないですか、完全に(笑)。
で、マトリックスのプラグに繋がれて、夢を観てて、今の現実世界だと思ってるのが彼女らじゃないですか。
 その彼女らが現実世界だと思ってるのはいいんだけど、ただ、それが余りにも彼女らが、そうゆうプログラムされてるんだろうけど、A.Iなのに凄く都合のいい女の子達なんですね、男達にとっては。
A.Iっていう事と、プログラムによる都合の良さ、っていうその凄い曖昧な、ようは聞こえないって設定じゃないですか、上位キーワードはあの辺も凄く都合のいい設定で(笑)。






■ ハイジン

ようは、都合よく好いてくれるのであれば、A.Iってのは一致しないって事ですね。






■ ニクロ

月子っていうキャラクターを出すには、そうゆう設定も必要やったんだろうけど、この作者無茶苦茶過ぎるんですよホントに(笑) 細かいこと言うと。






■ ハイジン

確かにね、A.Iってのは自我があるから、思い通りにならないって事がA.Iですからね。






■ ニクロ

 彼女らが、人を殺しても別に、全然、有り得るって話なんだけど、そうゆう事は絶対に起きないっていう。
不思議な均衡の元で(笑) で、彼女らは生きている実感はあるという、凄く不気味な所にあるんですね、アンリアルってのは。






■ ハイジン

だから、ホントに欲望を限界ギリギリまで詰め込んだ、という(笑)。






■ 電脳ボーイ

あったらいいな、を?(笑)






■ ニクロ

ドラえもんの道具ですよ、ホントに。まあ、リアリティーの話は、キリがないんで。






■ ハイジン

 そうゆう意味では、途中以降に完全に破状しているんでね。
ただね、俺はね、このマンガの志ってのは、高く評価出来るんですけどね。






■ ニクロ

どうゆう志ですか?






■ ハイジン

まあ、要するに、さっき言った欲望を際限なく注ぎ込んだ、という。






■ ニクロ

やりたい事をやったという?






■ ハイジン

ドラえもんの歌詞のまんま、あんな事いいな、出来たらいいな、という事を、ただやってるだけなんですよ。






■ ニクロ

でも、それってただ才能がなかっただけやないの?(笑) こうゆう系統を描く才能が。






■ 電脳ボーイ

もうちょっと丁寧に描けばね、もっと面白かったかもしれないけど。






■ ニクロ

今の(花沢健吾の)作品はどうですか? 「アイ・アム・ヒーロー」(週刊ビッグスピリッツ連載)は。






■ ハイジン

今はまだ様子見じゃないですか? とりあえず、お手並み拝見というか。








ルサンチマンの深層








■ 電脳ボーイ

俺は、江原に尽きるんですけどね。謎が多かったんで。






■ ハイジン

まあ、江原は最後の帳尻合わせキャラ、みたいな所はありますよね。






■ ニクロ

 たぶん、全ての反乱軍は江原の顔をしている、って発想から始まってるんですよアレ。ホントに。
そこだけですよ。そこから先はあんまり考えていないかなって、感じがして。
だから、発想専攻が凄く多いんですよ、このマンガ。






■ ハイジン

物語を語れないマンガではあるんですよ。






■ 電脳ボーイ

にしてもですよ(笑) 最後、猿ってのはヒドイじゃないですか。






■ ニクロ

 そこの部分も、そこまで行ったら俺はどっちでも良かったんやけどね。登場人物の誰にも愛着が沸かないんですよね、このマンガ。
それって凄い致命的じゃないですか。ボーイズ・オン・ザ・ランと違って、登場人物に乗れないんですよね。
タクローですら、タクロー目線で読んでるのに、全然。






■ 電脳ボーイ

共感する部分が全然ない?






■ ニクロ

 共感というよりは、なんやろ。キャラの描き方だと思うんだけど。
何故、月子の事が好きなのか、って事もぶっちゃけよくわからないんですよ。






■ ハイジン

そこはさ、結局、ヤりたいだけなんですよ、ただ。






■ ニクロ

それもさ、俺もそう思ってたら、その割には恋愛ゾーンも結構広いじゃないですか、途中、途中は。






■ ハイジン

 学園編みたいなのあるじゃないですか。学校に入学して。同僚の女の人と、越後が二人でアンリアルに行ったら、教室の中では、全員ヤッてるっていう。
この作者の頭の中って、あのまんまだと思うんですよね。






■ 電脳ボーイ

単純にヤりたいだけ?






■ ニクロ

 それやったら、そうゆう描き方もあるんじゃないかなって感じがして。
この作者も良くない所は、さっきも言ったけど均衡を取ろうとするんですね。
古谷実みたいに、突っ走って尖っていかない、というか。変に丸みを帯びるというか。
そうゆう事ばっかり描いてたらいいのに、恋愛要素を絡ませて、安定化を図ろうとする所が、ボーイズ・オン・ザ・ランでも、ルサンチマンでもあって。
 だから、この作者は俺はあんまり好きじゃないんですよね。すぐにバランスを取りたがるというか。








仮想現実の未来








■ ニクロ

 俺は、この作者も含めてなんですけど、いわゆる非モテとか、童貞とかを商業的にしている人たちが最近、好きじゃないんですね。
だから、多くを含めたら峯田(銀杏BOYZ)とかもそうだし。あの辺を、無意識の内に酔っ払える素材にしちゃった、というか。
そうゆう功罪はあると思うんですよ。






■ ハイジン

 カッコワルイ=カッコイイ、みたいな、そうゆう発想? でもさ、結局の所、峯田も含めてそうなんですけど、アレってようは魅せるって事なんですね。
パンクとかってのはさ、叫んで、暴れて、突っ込んでって、それは誰でも出来るんですよ。
ただ、それを魅せられるかどうかなんですね。人が叫んでる姿を見て、それでノレたら、それは一つのパフォーマンスであってね。






■ ニクロ

 俺が言いたい事としては、そうゆう人たちが増えて来て、そうゆう人たちが居るってのはエエんやけど、その人たちが俺の言った事に対して反論があってもエエんやけど、やっぱり、それでお金を貰って、それで商業にしてるわけやから、そこに対して俺は疑問が拭えないって所はあるんですよ。
 あと、こうゆうマンガを読んで、真っ先に「凄いマンガだ」とか褒めたりしたがる人っていうのは、なんていうんですかね、一応マンガって、主人公は普通メン以上じゃなきゃダメ、っていう裏ルールがあるじゃないですか?






■ 電脳ボーイ

えっ?(笑)






■ ニクロ

ジャンプのマンガでもそうだけど。






■ 電脳ボーイ

ジャンプはあれじゃないですか。






■ ニクロ

 まあ、ジャンプは抜きにしてもいいよ。青年誌を入れてもいいんだけど。ようは、絵柄的には全然普通なんだけど、全然モテないみたいな。
ようするに、こっちをノらせる為のルートってあるじゃないですか。ただ、こうゆう花沢健吾が描く主人公っていうのは、そうゆうモノとは、離れた所にあるというか。
 そうゆうので、物語が描かれていると、ちょっとそれに対して、芸術性というか、「こいつヤルな」っていう、感覚って見えちゃうと思うんですよ。
俺、そうゆう所も含めて、そっちに突っ走ってる人たちって、あんまり好きじゃないんですよ。






■ ハイジン

 でも、これは振り切ってるというか、ホントに女性読者はゼロだろうな、というような。
むしろ、スピリッツでやっていて、よく4巻まで続いたよなっていう(笑)。 それぐらいじゃないですか。






■ ニクロ

 でも、4巻まで続いたっていうのも、こうゆうキャラクター達、こうゆう題材でっていうのがあると思っていて、あれみたいなものじゃないですか。
俳優でいうと、すっごいイケメンが凄い演技をしていても何も思わないけど、凄い三枚目が演技をしていたら、そいつは演技派と呼ばれるんですね。
 やっぱり、このマンガも、これを褒めてる人たちは演技派って呼んでるような気がするんですよね。
で、ちょっとバタ臭いというか、普通のカッコ良さでは描いていないんだけど、それがカッコイイみたいな。さっき、ハイジンが言ったような。
酔っているような感じで、褒め称えている人は居ると思うんですけど、そうゆう人たちは本当に、何でもかんでも褒めるんだろうな、っていう気はするけどね。






■ ハイジン

 ただ、近い将来、こうゆうアンリアルに近いゲームが出来るであろう事は、予想出来るわけなんですね。
例えば、アンリアルってのが、ただヤリたい願望を補完するだけの装置であるならば、まだ、オンラインはそうゆう事に関しては見せていないというか、本心に裏の下心はあるけれど・・・って感じだと思うんですよ。
「あわよくば」みたいな状態だと思うんで。






■ ニクロ

でも、オンラインのゲーム欲と、アンリアルで描かれてるのは、また違う性質じゃないですか。






■ ハイジン

でも、オンラインと密接にあるわけなんですよ、アンリアルっていうのは。常に。






■ 電脳ボーイ

他の人間と繋がられる、という意味でね。






■ ニクロ

他の人間というか、コンピューターですか?






■ 電脳ボーイ

 コンピューターもそうだし、他の人間とも、仮想の世界で繋がられる。
世界はゲームで、下地はあるじゃないですか。






■ ハイジン

そういった意味で、今後、そうした進化は間違いないんじゃないですかね。






■ 電脳ボーイ

ただ、社会的にはどうなんやろうというね。






■ ハイジン

社会的に、いいんですよ。






■ 電脳ボーイ

逆に?






■ ハイジン

逃げ道を作っているんで。ようは、現実がダメなら、仮想現実で、っていう。






■ 電脳ボーイ

でも、あんまりリアルにすると、現実と混合するじゃないですか。






■ ハイジン

 だから、仮想現実にハマッている人が過労死するみたいな話は出ていたけれど、ホントにそれは一言ではなくって、仮想現実にハマって、現実の女性は要らないって人が出てくる未来もそう遠くないかもしれないんですよ。






■ 電脳ボーイ

そうゆう意味では、ラブプラスをしている人も。






■ ハイジン

いや、でもアレはまだ冗談ですよ。






■ 電脳ボーイ

冗談ですけど、ガチの人もチラホラ居るじゃないですか。






■ ハイジン

でも、それもガチだと思い込んでるだけなんですね。






■ 電脳ボーイ

 ガチの恋愛ではないかもしれないけど、その、現実の女性はめんどくさいから、っていう人居るじゃないですか。
軽くいい所だけ取っておきたい、みたいな。ドキドキする気持ちとか。






■ ハイジン

 ラブプラスって、まだ無いと思うんですね。振り幅というか、深みが。
たぶんね、まだまだイケると思うんですね。このジャンルに関しては。
だから、このくらいで「ガチでハマりました」ってのは、まだ俺は本気とは思えないんですよ。

 ただ、永遠に年を取らない女の子との擬似恋愛が、しかも、肌の温もりもない携帯ゲームでの壁当てキャッチボールで、これだけの実績が挙げられるという事は、今の時代にアンリアルが強く求められている証なんですよ。
そうゆう意味では、アンリアルが現実社会に登場する日は、そう遠くないかもしれないですよ。






■ 電脳ボーイ

いずれは、そうゆうのもあるかもしれないですね。






■ ハイジン

そうゆう事です。それでは今日はこの辺で。



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