ルパン三世 カリオストロの城








あらすじ

ヨーロッパの小国カリオストロ公国。
ニセ札の噂が絶えないこの国へやって来たルパンは、悪漢に追われるひとりの少女クラリスを助けるが、彼女は再び連れ去られてしまう。
実はカリオストロ公国・大公家のひとり娘であったクラリスは、強引に結婚を迫るカリオストロ伯爵によって城に幽閉されていたのだ。
ルパンは既に城内に忍び込んでいた不二子の手引きで城に潜入するのだが…。




原作: モンキー・パンチ
監督・脚本: 宮崎駿
制作: 東京ムービー新社
配給: 東宝
公開日: 1979年12月5日
上映時間: 100分














■ ハイジン

今回、宮崎駿を取り上げるんですが、どうですか? 宮崎アニメは? 好きですか?






■ ニクロ

うーん、まあ、もちろん好きなんだけど、この勿論好きっていうのも、ある意味で義務感みたいなものが働いているんですね。
やっぱり、日本人で宮崎駿ダメっていう人は、そう居ないというか、その人はそもそもアニメ嫌いなんじゃないか?
っていうぐらいだからね。






■ ハイジン

前提として(日本人は)宮崎駿を見ているもの、っていうのはありますよね。
ジブリ映画を「観てない」って答えはないですからね。






■ ニクロ

そうゆう事なんですね。むしろ、その人ちょっと貴重やからね。
逆に、そうゆう人と喋りたいと思ってしまうくらい(笑)






■ ハイジン

子供が観るアニメとして上位に挙げられて、それでいて大人も鑑賞し得る希少価値の高い作品ではあるからね。






■ ニクロ

 ただ、俺ね、やっぱり、映画館で観るようになったのは、もののけ姫からなんで、ジブリ映画はテレビサイズで観るもんだ、っていう変な固定観念を持ってて。
やっぱり、金曜ロードショーが毎年やってくれるからラピュタなりトトロなり、その辺は全部テレビで観て、やっぱりテレビサイズの中で収まってるんですよね、頭の中。
 だから、あれがデカいスクリーンで観たらどうなるのか、っていう所まで想像がいかなくて、実際にあの辺の作品がリバイバルで上映されへんから、観てないんですね、大きなスクリーンで。
でも今は、観たいんですよ、やっぱり。新作とかを観ていると。
これは、デカいスクリーンで観なきゃダメなんだろうな、ってのはあって。
でも、今の日本国民はお茶の間なんじゃないですか? ジブリ映画って。






■ ハイジン

まあ、金曜ロードショーってのが、ある意味で宮崎駿を鑑賞する装置に成り果ててるんじゃないかと。






■ ニクロ

そうゆう事なんですよ(笑)。






■ ハイジン

特に、魔女の宅急便なりラピュタなりって、金曜ロードショーでやってたのを、録画して後に何度も見返してたからね。子供の頃は。






■ ニクロ

そうそう。だから、日本にはビデオテープのラベルの裏に、魔女の宅急便とかラピュタとかマジックで書いてある家が沢山あるんですよ(笑)。






■ ハイジン

間違いなくありますね(笑)。






■ ニクロ

 ある意味で、だから貴重さってのはないんですよね、ジブリって事に。
ホントに、テレビで垂れ流されてるって事はないけど、やっぱり(TVで)やってくれるって事で、嫌な日常化されていて。
ホントはもっと、作品の観るべき所とか、芸術的な側面みたいな所もあるんだけど、そうゆうものが薄まっちゃってるっていうか、それはテレビの悪い所でもあるんやけどね。
どうしても大衆化しちゃったというか、その責任はテレビにあると思うんやけど。






■ ハイジン

 ただ、どっちなんですかね? 宮崎駿の目指している方向性というのは。
いわゆる金曜ロードショーを通して、お茶の間に広く一般に浸透したアニメを最初から目指していたのか、それとも、一人のアニメ作家として高い芸術性を打ち出す為に作品を作っていたのか。






■ ニクロ

 うーん・・・もののけ姫はそうゆうカラーがあると思うんですよ。
そうゆうってのは、いわゆる芸術性というか。
それまでも、ある程度はあるんだけど、ちょっと、絵柄が未来少年コナンじゃないけど、テレビでもいけるというか。
まあ、俺の世代がそう観てるだけかもしれないけど。そうゆう絵柄に見えたんですよ。
もののけ姫以降はシャープになるじゃないですか、絵柄が。
宮崎駿があそこから芸術に観て欲しいと思ったかどうかは知らないけど、俺の中では認識が変わっちゃったんですね。






■ ハイジン

なるほど。ちなみに、宮崎作品で一番好きな作品ってなんですか?






■ ニクロ

 一番は俺はラピュタですね。あんまりこうゆう事言うのも恥ずかしいんですけどね(笑)。
恐らく日本人が一番に挙げるのがラピュタやろうし。
ただ、俺の中ではベースなんですよね。アニメスペクタルものの中の。
だから、変に根付いちゃってて、これは覆せない気がするんですよ。
惰性で選んでるってだけじゃなくて、ちゃんと見返しても全作品の中で一番完成度が高いんですね。
脚本も含めて。物語の波というんですか。ココで落として、ココで上げてっていう。
嫌な言い方をすればプロットみたいな事になるんですけど。プロットがね、100点なんですよあの映画は。






■ ハイジン

解りますよ。ラピュタは教科書通り、という言い方をすればなんか貶してるようにも聞こえるんですけど、その通りなんで。






■ ニクロ

 というより、教科書を作ったんですよね、あの映画のリズムが。
やっぱり、あの映画が何回も金曜ロードショーで放映されるっていうのは、そうゆう事だと思うんですよね。
落とし所と、吊り上げ所をちゃんと描いてる、一番の映画じゃないですか。






■ ハイジン

ラピュタ以外では?






■ ニクロ

俺はトトロ紅の豚ですね。トトロに関しては、昔から大好きで、ポニョを観た事で、変な再評価が俺の中で始まってるんですね。
まあ、それは後で話したいんですけど。






■ ハイジン

では、逆に一番好きじゃない作品は?






■ ニクロ

ナウシカですね。これも理由は後で言いたいんですけど。ハイジンは?






 ハイジン

 俺は、一番はハウルなんですね。
結局の所、俺自身はハウルをそんなに熱心に研究しているわけでもなくて、何回も見直してるわけでもないんですよ。
ただ、「気分」が合致したって事なんですよね。ハウルって宮崎駿自身が観客を突き離している所があると思うんですね。
あれって、1回観て100%理解して最高の満足度に達する、ラピュタ的な観方は出来ないじゃないですか。
構成とかもそうだし、破状している部分もあるんやけど、その辺の壊れ方が気分とシンクロしていて。
物語の行方が自分の手の平から離れて行く瞬間なんかの、その支離滅裂さとジブリ絵のバランスの対比が、気持ちいい感覚に浸れるんですね。






■ ニクロ

なるほど。次点は?






■ ハイジン

他は、ラピュタか、千と千尋かですね。逆に一番低い評価が紅の豚で。






■ ニクロ

まあ、ある程度の人は紅の豚への評価はそうなってくるよね。一つだけ色が全然、違うんからね。






■ ハイジン

それは、まあ、後でゆっくり話すとしてそれでは、まずは一作目から。








宮崎駿 劇場公開アニメ第1作








■ ニクロ

カリオストロか。どっちの好きにも嫌いにも挙がらなかった(笑)。
これを一番に語るってのはどうなんやろ、まあ、いいんやけど(笑)。






■ ハイジン

カリオストロって、俺も正直、これが一作目か? っていうようなね(笑)。






■ ニクロ

これを一番に話すことが、ちょっと残念なくらいの(笑)。






■ ハイジン

なんなんですかね?






■ ニクロ

 ちょっと、古い人たちが盛り上がっていて、その辺に距離を置きたいんですよ、どうしても俺たちは。
そこに乗って行って、「俺も!俺も!」と行きたくないような感じというか。
あの、確かに面白いんですよ。2時間くらいあるんですか? 全然、観れる作品だし。
起承転結もしっかりしていて、俺は、ルパンも好きだし、ああいった冒険モノは好きなんだけど、なんていうのかな。
バタ臭さってのがやっぱり・・。俺たちが受け入れられないバタ臭さってあるじゃないですか? 70年代風のアニメというか。
やっぱり、あーゆうモノが目に付いちゃうんですよね。で、当時凄かったという技術で、伝説化されているものも、俺らの目から見て未だに伝説かと言えば、そうはならないというか。
 加速度という意味では、カーチェイスのシーンであったり、塔から塔への飛び移るシーンも、それを超えたというか、そのシーンだけを取り上げると、その加速度を超えているモノを見ている俺らから見ると、そんなに凄くはなくなっちゃってるというのはあるんですね。
話としては面白いんですけどね。ただ、ストーリーを語るのはあまり控えて、演出は凄い好きなんですけどね。
所々の演出はいい映画を観たな、って感覚に浸れるんですけど。
そうゆうのがいっぱいあるから、全編楽しいんですけど、あれがじゃあ宮崎駿の中でいいかと言われると、「いい映画」だとは思うけど、「宮崎駿の中でのいい映画」という感じはどうしてもしないんですよね。






■ ハイジン

 押井守は「うる星やつら2 ビューティフルドリーマー」で、うる星やつらの世界をベースに自分の趣味全快の映画を作ってるんですね。
カリオストロの城も、ルパン三世というフィールドで、宮崎駿が自分の趣味全快で、捕らわているお姫様をルパンが軽快に取り返しにいく、という事をやってるんですけど、ビューティフルドリーマーが、うる星やつらへのカウンターになっていて、今でも充分な破壊力を持っている映画になっているのに対して、これはそこまで破壊力を持っていないんですよ。
正直な話、宮崎駿のキャリアの上では他の作品でも代用がきくんですよ。
だから、これ一つに対して多くを語れないというか。






■ ニクロ

昔の、往年のピッチャーを観て凄いか、と言われると、今投げてるマー君の方が凄いじゃん、という事になっちゃうんですよ(笑)。






■ ハイジン

でも、それを言ったら昔の映画は全否定になりかねないんですけど、そういう事ではないんですよね?






■ ニクロ

 もちろん、野球をあげたのは、玉の速さとか、そうゆう所だけで勝負した話でね。
やっぱり、味わいというのはあるし、もちろん、今の映画よりも優れている所は、いっぱいあるし、本当にこれはスペクタルなんですよ。
活劇なんで。ただ、目新しさってのはどうしてもないんですよ。俺たちの世代からすると。
当時の人は盛り上がったんだろうけど、っていう気はするんやけど。






■ ハイジン

そうゆう冷めた目線になっちゃうんですよね。






■ ニクロ

単純に、「カリオトスロの城ってすげーんだよ!」って言ってる奴等から、距離を置きたいってのは、本当にあるんですよ。
あと、変にね、銭型警部が最後に「あなたの心を盗んでいきました」って、ああゆう所だけが一人歩きしている所があって、変な伝説化している所が余計に気持ち悪いんですよね。






■ ハイジン

フランダースの犬と同じ現象になってるんですね(笑)。






■ ニクロ
ラストシーンは知ってるけど、途中を知らないっていうね(笑)。






■ ハイジン

だから、外野の情報が多すぎて率直に批評をしずらい位置にいるんですね。






■ ニクロ

そうやね。これ一本を取り上げて、「どうですか?」っていう所ではね。






■ ハイジン

 宮崎駿の歴史を語る上でも、ルパンの歴史を語る上でも、中途半端に位置づけられていて。
宮崎駿の初期の活劇なら「未来少年コナン」を語ればいいし、ルパンならアニメの2ndシーズンとか話す事になる。
広いお茶の間の世界では受け入れられても、それぞれの「宮崎駿」、「ルパン三世」、という一つの単語を基調にしたコアな話をする場ではどっち付かずになってしまうってのはあると思うんですよ。






■ ニクロ

それは少なからずあるだろうね。








思い出装置としての宮崎映画








■ ハイジン

 もうちょっと冒頭の宮崎駿個人の話に手を広げて話していきたいんですけど。
宮崎駿は今までに10作品、監督をしているわけなんですけど、もののけ姫以降は、さっき言ってた「子供向けに作るアニメ」からは一線を置いた作り方になるじゃないですか。
単純な善悪ではない、幾らでも深読みが出来るような構成だったり。
明らかにそれまでとは異なる映画作りに転換されるんですね。
更に、もののけ姫以降の変化としては興行収入が格段に上がって、日本の映画の歴史を次々に塗り替えていく。
 ただ、これにはかなり政治的な力も働いてるんですけどね。
ウォルト・ディズニーと提携して、全米でも公開されるというニュースが大々的に発信されたり、宮崎駿の引退騒動があったりとか。






■ ニクロ

俺は、興行収入の約束された地位の流れってのは、魔女の宅急便以降だと思うんですよ。
確かに、どデカイヒットはもののけ姫以降からだけど、本当だったら紅の豚はコケてもおかしくはないんですよ。






■ ハイジン

趣味ですからね、あれは。






■ ニクロ

それを、「宮崎駿 ジブリ 行こうか」という、流れがあの辺からあった気がして。
その戦略がマックス高まったのが、もののけ姫って気はするんですよね。






■ ハイジン

 もののけ姫がジブリブランドの確立に一役も二役も買ってるっていうのは、ETの記録を抜いて、って所が大きいですよね。
それが、更に千と千尋で、完全に追い討ちをかけて。
今、「宮崎駿」って言ったら誰も興行収入では適わないじゃないですか。
でも、日本で一番売れている監督さんであるにも関わらず、賛否の否が目に付くのが、もののけ姫以降の作品なんですよね。
カリオストロの城やラピュタを支持している多くの大人達が、千と千尋ハウルに対して否定意見を述べるって事って、何か通ずるものがあると思うんですけけどね。






■ ニクロ

俺は、そうゆう人たちは「乗り遅れた人たち」だと思っているんですよ。
現代の感覚に対応していないというか。どうしても、そっちに幻想を求めてしまうという所で。






■ ハイジン

 なんですかね。冒険活劇を求める思考というのは? 今でも宮崎駿って求められるじゃないですか。
「作ろうと思えばいつだって作れる」っていう意見もあるくらいで。
その、需要と供給が一致していないにも関わらず、メガヒットを連発するというのは。






■ ニクロ

 俺は、宮崎駿の転換ぶりってのは、ハリウッドの西部劇の衰退に似ていると思うんですよ。
西部劇も黄金期の50年代は、もうそればっかりで。
それこそ腐るほど、しょうもない作品から、とんでもない名作まで作られて、ただ、それもどんどん衰退していくんですね。
何故かというと、人々が完全な勧善懲悪というものを、信用出来なくなったという所で。
結局、「誰が悪いんだ?」って所で、悪者が解らなくなっちゃったんですね。
そうゆう所で、スペクタルってトコでも悪対正義という最も解りやすい構図になると思うんですね。
そうゆうものに対する、惰性というか、「まあ、やっつけてくれたらいいや」という気持ちの中に居る人たちだと思うんですよね。そのラピュタのような冒険活劇を求める大人ってのは。
現代の人たちは、そうゆう気持ちではないんですよね。
 単純に今、ラピュタ2が作られたら、それなりに売れるのは売れるんだけど、ただ、残すものがあるのかって言われたら、ないだろうし、宮崎駿もそのつもりはない筈なんですよ。
で、今何を作るのかと言ったら、ちょっと前だと千と千尋になるんですね。
千と千尋はコミニケーションについての映画だって、宮崎駿が言ってて、その辺は時代を汲んでるんですよね。
そんな時代に悪と正義が闘っても、誰も納得しないというか。そこから受け取るものはないんで。
とりあえず、金曜ロードショーは思いでに浸る為にラピュタナウシカを何度も流すけれど、今、リアルタイムでやるべき事はそうゆう事じゃないんだ、って事を宮崎駿はちゃんと解ってて。
で、それに乗り遅れてる人が「宮崎駿は冒険活劇を!」と騒いでると思うんですよ。






■ ハイジン

金曜ロードショーで思いでに浸るって言葉が出たんですけど、確かにアレ(金曜ロードショーのジブリ)は「思い出装置」ですよね。
作動されますからね(笑)。






■ ニクロ

やってたら「とりあえず観るか」っていうね。始まって、30分、40分経ってても「やってるから観るか」っていう。
「ちょっと、ソファー座るか」っていう(笑)。






■ ハイジン

ザッピングしてても手は止めますからね(笑)。






■ ニクロ

あの辺は凄いですよね。日本国民に刷り込まれているジブリ脳というのか(笑)。






■ ハイジン

ようは、その思い出装置にしがみついてる人たちは、忘れられないという事になるんですかね。






■ ニクロ

まあ、そうゆう事なんかな。






■ ハイジン

総合すると、宮崎駿ってのは、どうしても否定からの始まりだと思うんですね。
俺たちからすれば。「思い出装置」という。






■ ニクロ

それは、同時代ではない、という意味を含めてで。
俺はラピュタを1位に挙げるし、ハイジンも2位に挙げるわけで。
そこに、単に「思い出装置」に終わらない所があるとは思うんですけど。





■ ハイジン

ただ、まあ、俺たち覚醒実験の宮崎駿論でのカリオストロの城の見解は、「宮崎駿思い出装置第1号」というのが。





■ ニクロ

 まあ、思い出装置という側面がデカイってのはあるんですよ。俺もハイジンも出身は田舎やんか。
田舎にとって、それはデカイんよ。新しいものが入って来づらいから、のんべんだらりとそうゆうものを並べられちゃうと、観ちゃうというのはあるんですよ。





■ ハイジン

じゃあ、やっぱ俺たちのカリオストロの城の評価は、「宮崎駿思い出装置1号」って事ですね(笑)。
浸ってた大人たちにはノスタルジーを思い起こさせてくれる便利な装置(笑)。



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